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社会保険労務士法人 人事AID

清水 豊日 先生 -Toyohi Shimizu-

今回、中小企業福祉事業団から上記の標題で原稿の依頼を受け、あらためて過去の導入部までを読み直すと、「顧客」とは「顧問先」であり、具体的には「中小企業経営者」を想定しているようです。

まず最初におことわりしておかなければなりません。私は顧問先として「中小企業経営者」を想定していません。私たち社会保険労務士の主たる業務は、労使が雇用契約を締結し、労使共通の利益のために維持される「雇用契約関係が存在する組織」があるのが前提で、私たちの顧客はこの「組織」であると考えています。

私は組織との契約に際し「貴方が死んだら会社はどうなります?」と経営者に質問することがあります。さすがに「自分と一緒に墓に入る」と答える社長はいませんが、この質問は経営者の片腕として仕えているナンバー2の方に向けての質問でもあります。また組織内の労働者とお話しするときは「この組織での数年後、数十年後の貴方の役割は?」と質問します。数年後、数十年後の自分を想像することは、その時点での組織を想像することでもあります。また自分や組織がどのように変化していても、弊所が変わらずこの組織を支えている姿を想像していただくことでもあります。
上記組織には自律的機能が内在して組織が維持されています。ただ何らかの理由でその機能が十分に働かなくなったときに、機能を回復するお手伝いをするのが社会保険労務士の役割であると考えています。私たちには外科的に組織を作り直す力はありませんが、組織に生じた痛みを軽減する「絆創膏」の役割を担い機能回復を促すことはできる。社会保険労務士の存在意義がそこに認められればよし、また弊所も継続的組織たれという想いを込めて、2001年開業から2007年の法人設立を機に事務所名を「人事AID(ジンジエイド)」と改称して現在に至っています。

法人組織移行とほぼ同時期、私は第1回紛争解決手続代理業務試験を経て「特定」の付記を受け、その後、東京会の依頼で2007年から2012年までグループリーダーとして特別研修に関わらせていただきました。これは特別研修、特にグループ研修での起案作成、争点整理は今後の私たちにとって必須の技術となると考えていたからで、研修中はグループの皆さんと濃密な時間を過ごさせていただき、未だに飲み会などにお誘いいただいたり、紛争解決についてお手伝いをさせていただいたりしています。営業ベタな私にとってはこれが営業活動と言えるものかもしれません。
上記研修は「特定」の付記を受けるための要件ですが、私たちの本来の使命は、特定社会保険労務士として紛争解決手続に臨むことではないと考えています。良好な労使関係のもと紛争が発生しない環境を整えること、組織が健全に維持されることをお手伝いすることが私たちの使命であるはずで、労使紛争に際して一方の代理人として依頼人の正義の実現、最大限の権利の獲得を目指す弁護士とは本質的な違いがあると考えています(これは紛争の場での弁護士の役割を否定するものではありません。私もお互いに役割が違うことを理解し合える弁護士との協業は日常的にあります)。
この弁護士との違いを説明すると「社会保険労務士は労使間で中立であること」と解釈されることがありますが、これは誤解です。たまたま『「独裁者」との交渉術(集英社新書)』という本を読んでいて、国連の旧ユーゴ問題担当・事務総長特別代表だった明石康氏が同様の違和感を述べられていて、それ以来これに倣い「中立ではなく普遍的な立場にあること」と補足するようにしています。

弊所でも主たる業務となる諸法令に基づく申請書等の作成、手続代行、給与計算業務に関しても、社会保険労務士としての普遍性はまた別の観点から重要な判断要素となると考えています。
社会保険労務士には労働社会保険諸法令の適切な運用と保険料の適正納付を支えてきた歴史があり、これは今でも私たちの役割の主要部分としてあります。ただ私たちが関与する意味は、諸法令の適切な運用等が組織の維持につながり、結果的に国民の社会福祉の維持向上につながるからこそであり、普遍的な立場での判断を求められるなら、その選択がこの目的に寄与するかが判断基準となると考えています。

以上、まとめきれない内容となってしまいましたが、最後までお目通しいただきました皆様に感謝申し上げます。私は還暦をとうに過ぎ、父親の没年を超えてしまいました。この場をお借りして申し上げた私の拙文が皆様の今後の業務に何かしらのヒントとなれば幸いです。

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