中企団加盟社労士
全国6,257事務所

トップページサービス一覧NETWORK INFORMATION CHUKIDAN ≫ 業種特化社労士の視点から


NETWORK INFORMATION CHUKIDAN

業種特化社労士の視点から(第45回 『製造業編』)

<佐藤 律子 氏>

●製造業と関わるようになったきっかけ
私の出身地、滋賀県彦根市の特産品には、水道の配管などに使われる「バルブ」というものがあります。私の父は、そのバルブを作る会社に勤めており、私自身、そんな父に連れられて、小さいころから、工場の設計ソフトで遊んだり、海水で実験をしてみたりと、モノづくりの環境の中で育ちました。
大学では、日本文学を学びたくて文学部に通いましたが、就職活動の自己分析で、「やっぱり働くなら製造業がいい」ということに気づいた私は、文系ながらも「でっかい装置を作る会社」に入りたいという思いだけで、半導体製造装置メーカーに入社しました。
製造業では、技術の用語などの難解な言葉が飛び交いますが、そういった言葉を調べるのもまた、私の楽しみでした。
そして、社労士として開業してから、私のこうした経歴を知った方から、製造業関係のセミナーの講師をしてほしいとお声かけいただいたことが、社労士として製造業に関わるようになったきっかけです。

●製造業ならではのコミュニケーション
製造業の社員構成は少し独特です。技術や生産に関わる方が多くを占め、次に多いのが営業職。人事や総務といったスタッフ職は極端に少ないことが一般的です。
さらに、技術の方はロジカルで、生産の方は朴訥、営業職は人懐っこく。職種ごとに、パーソナリティがまったく違うため、それぞれの部署ごとにコミュニケーションの方法を少しずつ変えていく必要があります。特に、製造業のお客様と接するときは、その方がどこの部署の出身かを確認したうえでお話をしていくと、スムーズにコミュニケーションをとることができます。

●製造業の採用
職種ごとのパーソナリティの違いは、採用にも大きく影響します。ひとえに「製造業での採用」といっても、「職種ごとの特徴」をとらえたうえで、求人の文章を作成しなければ、ミスマッチが起きてしまいます。加えて、製造業は技術の用語が難しいことが多く、技術系以外の学生さんたちに、会社の特徴や仕事の内容を理解してもらうことは難しいです。そのため、中学生でもわかるような、簡単で想像しやすい言葉を使った求人票を作ることが肝となります。そして、実は、社労士のような外部の人間だからこそ、製造業のお客様のことを、客観的に、平易な言葉で表して差し上げることができます。これは、私たち社労士の付加価値だと思っています。

●最近の製造業が抱える課題
最近の製造業が抱える課題にはどのようなものがあるでしょうか?日々、製造業に関わる中で特に感じる2つのものを挙げてみたいと思います。

①伝統的な給与体系の見直し
製造業は、昭和の時代から続く会社さんが多く、そのため、給与体系が昭和のころのものをそのまま受け継いでいることがほとんどです。その中で、最近は、「家族手当」や「家賃手当」といった手当の見直しをされている製造業の会社さんが増えてきているような印象があります。背景として、昭和のころと比べて、共働きが増えたことや、家庭環境が変わってきていることなどが挙げられます。
特に、経営陣が代替わりするときは、時代に合わせた見直しが求められます。ドラスティックに改革を推し進めてしまうと、先代から働いている従業員からの信頼を損ねることにもつながるため、私たち専門家が、確実なロードマップを作り、一緒に見直しを進めていく必要があります。

②高年齢労働者の雇用
比較的離職率が低い業種でもある製造業において、高年齢労働者との向き合いは避けては通れません。中小の製造業にとって、技能を持っている高年齢労働者は雇用し続けたい一方で、労災リスクを踏まえたうえで働き続けてもらう必要があります。近年、高年齢労働者の労災は増えていますが、これは、若年層と違って、高年齢労働者のけがは重くなりやすいことが背景の一つです。現場仕事が欠かせない製造業において、労災は非常に身近なものです。厚生労働省の「エイジフレンドリーガイドライン」なども参考にしながら、高年齢労働者と会社の双方ともに納得のいく職場環境づくりが急務です。

●製造業をサポートするうえで大切にしていること
ずっと以前から、日本のモノづくり文化を築き、経済を支えてきた製造業は今、働き方改革を始めとした流れの中で、時代に合わせた労働環境を模索し続けています。最先端の車や家電も、開発し、作り出しているのは人間です。製造業で働いている人が最高のパフォーマンスを出し続けられる環境を作ることが、日本の技術力の向上には欠かせないと思います。
私は、会社員時代、「人事や安全衛生は売上げに直接的には寄与できないけれど、その中でできることは何なのか」をずっと考えていました。私たち社労士のお仕事である、人事や安全衛生は、確かに直接的には売上げには貢献できません。ですが、売上げを上げる上で欠かせない組織や環境づくりのお手伝いはできます。そのために、法律を分かりやすく説明することや、評価・賃金制度作りのお手伝いも大切です。ただ、それ以上に、私が大事にしていることがあります。
それは、外部の人間である私自身が、現場の方の技術や技能のすばらしさに気づき、賛辞を送ることです。製造業の現場の方は、プライドを持ってその仕事をされています。まずは、こちら側から歩み寄ることで、初めて人事や安全衛生についての話を対等に聞いていただけるようになります。これからも、現場を理解し、実情をとらえた寄り添ったフォローをしていきたいと思います。

りつ社会保険労務士事務所
 佐藤 律子 氏

大学卒業後、半導体製造装置メーカーに入社し、人事と安全衛生の業務に従事。在籍中に社会保険労務士の資格を取得し、2018年に事務所を開業。
安全衛生の業務を通じて、「現場の声を理解しなければ、人が動く仕組みなんてできない」ということを痛切に感じ、その経験から、安全衛生という、現場の声と法律を融合することの面白さを知る。現在は、人事と安全衛生を掛け合わせたアプローチで、企業の職場環境の改善に取り組んでいる。
【執筆実績】「役立つ! 産業・組織心理学」(共著:ナカニシヤ発行)
      「テレワークで困ったときに読む本 設計・運用・メンタルヘルス
       対策」(共著:中央経済社発行)など

▲PAGETOP