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業種特化社労士の視点から(第41回 『派遣業界編』)

<中宮 伸二郎 氏>

非正規雇用といえば、派遣労働者のこととお考えの方が多いかもしれません。2021年度総務省労働力統計によると、日本における派遣労働者の人数は140万人で、役員を除く雇用者5671万人に占める割合は約2.5%です。非正規雇用2064万人のうち、パート・アルバイトが1455万人を占め、派遣労働者は少数派です。少数派にもかかわらず、雇用と指揮命令が分離する特殊な働き方であることから、その制度は複雑です。しかし、複雑だからこそ社労士の活躍の場があります。

●労働者派遣法の変遷
労働者派遣法の変遷は、始めに規制緩和、その後に規制強化の歴史です。当初、労働者派遣法は、職業安定法の労働者供給事業禁止の例外として、規制を緩和して誕生しました。その後、更なる緩和と強化を繰り返し、現在の複雑な制度が出来上がりました。

1985年に成立した労働者派遣法は、その成立過程において、3つの基本的方向性が定められました。これは現在でも維持されている考え方です。
①労働者派遣事業の制度化による労働力需給調整機能の有効発揮
②派遣労働者の保護
③日本的雇用慣行との調和(常用代替防止)
これらに基づき、1986年の施行の際には、常用代替防止の観点から、正社員との棲み分けが可能となるよう、専門職の派遣業務を創設することを目的に、派遣可能な業務は、政令で定める13業務(後に26業務に拡大)に限定されていました。また、このとき派遣事業は、雇用が不安定になりがちな登録型派遣(許可制)と常用雇用労働者のみを派遣する特定労働者派遣(届出制)に区分されていました。
1999年から2007年までは、改正を重ねながら規制緩和が行われました。政令26業務に限定していた対象業務を原則自由化し、港湾運送・建設・警備等の業務以外の業務に派遣することが可能となりました。また、政令26業務以外の業務の派遣受け入れ可能期間は、当初1年とされていたものが、最長3年まで認められることになりました。これらの規制緩和により労働者派遣業界は、拡大していきました。2000年代前半、ガラケー全盛の頃、某大手派遣会社幹部が、携帯電話の設計・製造・流通全ての場面で派遣労働者が活躍していると話していたことを記憶しています。

ところが、労働者派遣業界の拡大とともに労働者派遣の問題点もクローズアップされるようになりました。2008年のリーマンショック後のいわゆる派遣切りが問題視され、雇用契約期間満了前に派遣契約解除だけを理由に解雇することが制限されました。
また、最も短期の雇用形態である日雇派遣に注目が集まりました。日雇派遣は、短期雇用の不安定さもさることながら、日雇派遣を業とする派遣会社のコンプライアンス体制が不十分であったことに起因する違法行為が問題となっていました。派遣してはならない業務への派遣や業務管理費などの名目で、1日数百円を賃金から控除する等、世間を騒がせたことを記憶している方も多いと思います。この結果、日雇派遣は、2012年の法改正により、雇用契約期間が30日以内の者を派遣することは、原則禁止されました。

派遣受入期間の上限について、政令26業務については、無期限の派遣受け入れを認め、それ以外の業務は、3年を受け入れの上限とする制度についても、業務の実態が異なるにもかかわらず、政令26業務を装う不適切な取り扱いが多数発覚しました。これを受けて、2015年の法改正では、派遣期間上限の一本化が行われました。現行の個人単位抵触日、事業所単位抵触日です。この改正により、有期雇用派遣労働者は、同一組織単位で3年を上限とし、派遣労働者がそれ以後の勤務継続を希望する場合は、無期雇用派遣労働者とするか、他の派遣先で勤務できるようにする等しなければならない雇用安定措置が派遣会社に義務付けられました。現在、派遣会社では、3年の上限を迎える派遣労働者について、無期雇用に転換して、同じ職場への派遣を続けるか、他の派遣先に派遣するかの選択をしなければなりません。2015年の改正では、特定労働者派遣事業制度(届出制)が廃止され、2018年までにすべての派遣会社が許可を取得しなければならなくなりました。

その後、働き方改革の一環である同一労働同一賃金に対応するため、2020年の法改正により、派遣社員の賃金の決定方式は、「派遣先均等均衡方式」「労使協定方式」いずれかによることとされました。「派遣先均等均衡方式」は、派遣先企業との均等均衡、「労使協定方式」は、世間相場との均等の確保を目的としています。どちらを選ぶかは、派遣会社が選択するのですが、2022年12月の厚労省公表資料では、約9割が「労使協定方式」を選択しています。

●派遣業界の多様性
労働者派遣事業の許可を持つ事業所(派遣元事業所)すべてが、いわゆる派遣会社ではありません。派遣元事業所は大きく2種類に分けることができます。一つは、人材サービス会社と言われる労働者派遣・職業紹介・BPOを専業とする企業です(以下「専業型」と言います)。専業型は、さらに全ての職種に対応する総合型と介護や運送など特定の業界に対してのみサービスを提供する業界特化型に分かれます。もう一つは、本業が他にあり、事業の都合で派遣も行っている兼業型です。
専業型の特徴は、有期雇用派遣労働者の比率が高いことです。有期雇用(2~3か月が多い)・時給・所定労働時間は必ずしもフルタイムではない傾向にあります。ただし、専業型の業界特化型は、専門性の高い人材を確保する必要から無期・フルタイムが多い傾向にあり、月給制を採用していることもあります。兼業型の典型例は、建設会社とシステム会社です。建設会社は、本業である建設業務に労働者を派遣することはできませんが、本業に付随して設計業務や施工管理業務の担当者を派遣することが求められることがあるため、許可を取得しています。システム会社も建設業界のように多くの企業が共同で作業をしなければならないことがあり、他社の指揮命令下で業務を行うために労働者派遣の形式を用いなければならないことから、許可を取得しています。
兼業型の特徴は、別に本業があることから、無期雇用比率が高く、いわゆる正社員の派遣が多い傾向にあります。また、取引の手段として派遣制度を用いているだけで、企業は派遣労働者を雇用しているという意識が希薄なことも特徴です。それゆえ、派遣法で定める各種手続きが疎かになりやすい傾向もあります。
また、許可を取得していても実績がない派遣元事業所もあります。2020年度労働者派遣事業報告書の集計結果によると、報告書提出事業所のうち24.4%は、派遣実績なしです。実績がなくても、取引先からいつ要請されるか分からないので許可を更新し続けているケースがあります。このような場合でも毎年、事業報告書を提出しなければなりません。

●社労士と労働者派遣
派遣元事業所が多様であるため、社労士のかかわり方も様々です。
兼業型では、労働者派遣法に基づく業務を求められることが多くなります。許可(更新)申請や事業報告書、労使協定方式の労使協定の作成等が主な業務になります。
専業型では、派遣法に基づく業務はシステム化されているため、その分野での需要は多くなりません。専業型から求められるのは、労務トラブルの未然防止です。専業型では、労務管理経験の浅い新人でも派遣労働者の管理を任されることがあり、派遣制度はもとより、雇用のルール全般に関し理解が浅いケースがあります。知識・経験が不足していることは、労務トラブル発生原因の一つとなっています。日々の相談対応だけではなく、新人教育を任されることもあります。また、専業型の場合、有料職業紹介事業も行っていることから、職業安定法の知識も欠かせません。
今後、多様な働き方を推進していくと、労働者の仕事選びの負担、企業の採用の負担の両方を軽減する労働者派遣や職業紹介の労働市場における重要性が高まると考えられます。しかし、人材サービス業界は、日雇派遣をはじめ様々な問題から批判されることが多く、不適切な事業者が未だに存在することも事実です。
私は、適切な事業運営で世間の役に立ちたいという企業に対し、社外の視点から手助けすることで、人材サービス業界の更なる発展に寄与したいと考えています。

社会保険労務士法人 ユアサイド
特定社会保険労務士 中宮 伸二郎 氏

2000年に社会保険労務士試験に合格し、2007年に社会保険労務士法人ユアサイド設立。
8名の社会保険労務士を擁する事務所の代表として、様々な業種・規模の労務問題にかかわる。2007年より派遣元責任者講習の講師を務める労働者派遣制度のエキスパート。

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