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業種特化社労士の視点から(第34回『非営利組織 NPO法人編』)

<家村 啓三 氏>

●非営利組織と関わるきっかけ
私は、父は警察官、母は教師という厳格な家庭で育ちました。幼少期から父の転勤に伴い全国を転々とし、都道府県をまたいで4つの小学校を経験しました。「公務員は国民全体の利益のために奉仕すべし」という父の考えの下で育てられため、他人にサービスをして、その相手方から対価としてお金や物をいただくことなど絶対に許されませんでした。
28歳で社労士を開業した後も、利潤を追求することに躊躇してしまう生来の性格が事業発展の足かせとなっていると感じていました。一方、社会保険労務士という仕事で、何か社会に役立つことをしたいという使命感は常に心の中にありました。社会のため、人のためになりながら、社労士としての仕事ができないものだろうか、そのような想いを抱きながら、地域で活動しているNPO法人の門をたたいたのは20数年前のことでした。

●東日本大震災
その後、私がNPOに深くかかわりを持つようになったのは、東日本大震災がきっかけです。東京都社労士会(当時は柏木会長)では、直接出向いて現地を応援するという機運が高まり、私は一週間泊り込みで石巻の労働基準監督署で支援を行いました。
震災後、被災地では街づくり、子供の遊び場、老人の孤立化等様々な問題が発生し、その解決のために多くのNPOが立ち上がり支援活動をしていました。しかし組織基盤は脆弱で、継続して活動することには困難を伴っていました。
震災からほどなく、ワールドビジョンジャパン(世界的な支援組織)に集まった募金を基に、被災地で活動しているNPO団体を育成・強化するプロジェクトが立ち上げられました。私もそのメンバーとして、労務管理や労働・社会保険についてNPO等を支援するセミナーを行い、その他の活動も含め18回以上被災地に出向きました。その後も様々な非営利団体の依頼でセミナー、執筆、相談活動等を行っています。

■NPO法人支援の執筆活動抜粋

●NPOとは
社会活動は様々な組織に支えられています。大別すると、営利を目的とする組織とそうでない組織です。後者は非営利組織、非営利団体などと呼ばれています。一般企業が利益(利潤)を追求することを主目的とするのに対し、非営利組織はミッションの達成を目的としています。その代表格は国や地方公共団体等の行政組織でしょう。
行政組織は公共のサービスを通じて社会に貢献する欠くべからざる存在で、その執行は必ず法律に基づいて実施されます。法律に基づいて実施される以上、その行為は法律に制限されて行われ、財源には限界があります。しかしながら社会が求めるサービスには限りがありません。多種多様できめ細やかな、いわばかゆいところに手が届くようなサービスが求められます。
機動力の高い市民活動団体(NPO)が評価されるようになった最初のきっかけは阪神大震災でした。行政サービスに限度があるなか、震災後の様々な活動が法的に整備され、2002年にNPO法が成立しました。
さらに2011年にはNPO法人への寄附を促すことにより、その活動を支援するための税制上の優遇措置として、認定NPO法人制度が創設されました。また、現在ではスタートアップ支援のため、設立後5年以内のNPO法人を対象とする特例認定NPO法人制度も設けられています。

●NPOが抱える課題
①ミッション達成の場から雇用の場へ
NPOと聞くと多くの方は「ボランティア?」「お金儲けしちゃいけないんですよね?」などと、ぼんやりイメージするのではないでしょうか。あるいは「寄付する先」や「慈善活動の場」として思い浮かべる人も多いと思います。NPOに長く関わってきた者として最も感じることは、現在のNPOは「雇用の場」へと変化してきているということです。一般企業と変わらないような規模のNPO法人や、新卒採用を行っているNPO法人もあります。
NPOは設立当初、「何かをやらなければ」というミッションに気持ちを突き動かされて活動を始めます。そこには「労働者」という考えはなく、時間もお金も厭わない、「人のために何かをする」という想いが先行していました。もちろん、今もその精神は保たれています。
ところがNPOの活動が順調に進むと、行政から委託を受けて事業を行うようになります。あるいは、社会的に認知され、会員からの会費や寄付金が集まると、事業継続のために常に人の手が必要となります。活動当初はボランティアに対して「交通費のみ」「弁当代のみ」の支払い程度だったものが、使用従属性が高まり「〇〇日にきてほしい」とか「給与や謝金を支払うからきてほしい」となっていきます。
運営側の代表理事が自ら活動し「時間給」で報酬を受け取っているケースもあり、資金不足から社会保険の加入が難しいとの相談も多く寄せられます。また「想い先行」型の当初のメンバーと雇用の場として後から入職したメンバーとのすれ違いから、トラブルに発展するケースも少なくありません。
そのようなことから、組織をマネジメントするという視点がNPOの課題と考えるようになりました。
②個人の成果をどう評価するか
NPOの多くは寄付金、会費、補助金等で運営されています。非営利団体といえども一定のルールの下で収益事業をすることは許されており、会計年度で締めた後の余剰分は次年度以降の活動のために繰り越すことになっています。
通常、営利企業であればお金を多く集めた人が評価されることは当然ですが、非営利企業の場合、必ずしも寄付をたくさん集めた人が評価されるわけではありません。社会的価値を最大化するためにいかに貢献できたか、ステークホルダーに満足してもらえたかが、成果の前提になると考えています。限られた財源の中で、成果に基づいて適正に配分することにより、モチベーションを維持しながらどうミッションを達成していくかは難題です。
私は以前、非営利組織を支援する弁護士等のグループに招かれ、評価制度構築のためのセミナーを行いましたが、下表のようなNPOの特徴を知ったうえで、労務管理を行うことは重要な視点であると感じています。

●NPOの労務管理で大切にしていること
労働法は、営利企業、非営利企業を問わず一人でも労働者を雇っていれば、等しく適用されます。財政基盤が弱く寄付や会費で運営されるNPOでは「最低賃金法」さえ守りたくても守れないというような団体もあります。また障がい者の親が、手弁当で就労支援事業を行っている場合等、働いた経験や労働法の知識が全くない方で運営されている場合もあります。
現在の法律をわかりやすく説明しつつ、それぞれの組織にあてはめ、あるべき方向性を示し、バランス感覚をもってアドバイスすることが社会保険労務士としての使命だと感じています。
昨今「雇用類似の働き方」という議論が行われていますが、NPOでは労働者性という観点から「有償ボランティア」はずっと悩ましい問題として存在していました。私は、使用従属性はあるものの、自発性、利他性が特徴の「有償ボランティア」の労働者性は、現在の法律では解決し難いと考えています。家内労働法や下請法のような新たな法制度の必要性を感じています。

●NPOにかかわりたい社労士の方へ
これまで述べてきたように、私の場合NPOに特化したいということではなく、「社会の役に立ちたい」という想いが、結果的にNPO法人とのお付き合いになりました。
脆弱な資金で熱心に活動しているNPOから顧問報酬をいただくことは、時に大変申し訳ない気持ちになることもあります。またNPOという組織の特殊性を理解せずに、安易に顧問先とするのも感心しません。しかし、社労士として社会に役に立ちたいという想いでNPOを支援したい方が増えることは大いに歓迎するところです。NPOに限らず、是非多くの方々が社会的な活動に携わることを望んでやみません。

社労士家村事務所
特定社会保険労務士 家村 啓三 氏

売上高数兆円規模の上場企業人事労務担当者を経て、1983年社会保険労務士開業。東京都社会保険労務士会開業部会長(常任理事)を歴任。2010年経営学修士(MBA)。「むずかしいことをわかりやすく」をモットーにした労働相談は好評。近年は、法と経営のバランスのとれた労務管理を研究模索している。
講師活動:「テレワークセミナー」(2021年度 総務省主催)、「我が国の育児制度について」(2017年3月 東京大学大学院経済学研究科対象)、「非営利組織の人事評価」(2016年11月 弁護士、非営利組織等対象)、「NPO応援プロジェクト」(2015年3月 公認会計士、税理士、行政対象)
執筆活動:「安全・安心革新戦略」(学文社・執筆者)「はたらきやすいNPOを目指して」(中央ろうきん社会貢献基金・共著)「パートの賃金の確保、就業規則の読み方」(社労think・共著、監修)「定年退職後ライフ」(日本法令・共著)…他、有給休暇、過半数代表者の選任等に関する論文などを多数執筆

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