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法令改正最前線(第37回『パワハラ検討会報告書』)

<滝 則茂 氏>

今回は、3月30日に公表された「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」を取り上げることとします。

1.「働き方改革実行計画」における位置付け

この計画の中で、パワーハラスメントは、「労働者が健康に働くための職場環境の整備」に関する問題として位置付けられており、以下のような記述があります。

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労働者が健康に働くための職場環境の整備のために必要なことは、労働時間管理の厳格化だけではない。上司や同僚との良好な人間関係づくりを併せて推進する。このため、職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う。

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2.「検討会」における検討、報告書の公表

上記の実行計画を受けて、平成29年5月から、厚生労働省(雇用環境・均等局)が主催する「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」が10回実施され、①職場のパワーハラスメントの実態や課題の把握、②職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策等について、検討が行われました。そして、その結果を取りまとめた検討会報告書が、本年3月30日に公表されています。 以下、報告書のうち、パワーハラスメント防止策に関する記述の骨子を紹介します。

3.対応策の選択肢

報告書では、以下の5つを防止策の類型として取り上げ、検討を行っています。

①行為者の刑事責任、民事責任(刑事罰、不法行為)

パワーハラスメントが違法であることを法律で明確化し、行為者を刑罰や損害賠償の対象とする。

②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定(民事効)

事業主がパワーハラスメント防止に配慮する旨を法律に規定し、その不作為が民事訴訟や労働審判の対象となることを明確にする。

③事業主に対する措置義務

セクシュアルハラスメント対策等の例を参考に、事業主にパワーハラスメント防止等に関する措置義務を課し、違反に対しては行政指導等で対応する。

④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示

事業主に対し、パワーハラスメント防止等のため雇用管理上の一定の対応を講ずることをガイドラインにより働きかけ、パワーハラスメントが生じない職場環境の整備を図っていく。

⑤社会機運の醸成

パワーハラスメントが、労働者のメンタル不調や人命にも関わる重大な問題であること、職場全体の生産性や意欲の低下等につながり経営的にも大きな損失であることにつき、広く事業主に理解してもらい、防止策に対する社会全体の機運の醸成を図っていく。

※上記の①~⑤につき、検討会では、多種多様な意見が出されましたが、大きな方向性という点で見ると、①・②は現状では時期尚早であり、③~⑤をうまく組み合わせて当面の施策を具体化していくべきだという流れにあると思われます。

4.事業主が講ずる対応策として考えられるもの

これに関しては、現行のいわゆるセクハラ指針等のハラスメント防止に関するガイドラインに準じ、以下のような施策が示されています。

①事業主の方針等の明確化、周知・啓発

②相談等に適切に対応するために必要な体制の整備

③事後の迅速・適切な対応

④①~③までの対応と併せて行う対応

※社労士実務との関わりで見ると、たとえば、①に関しては、就業規則の規定の見直し(新たに創設されるであろう指針等を踏まえた、規定の明確化)、従業員向けの研修のサポートを行うことが考えられます。

5.今後の見通し

今後は、労働政策審議会の場で、検討会での議論を踏まえ、将来の法制化、ガイドラインの策定を視野に入れた検討が行われることになるでしょう。職種や業種などによって、パワーハラスメントとはならない「業務の適正な範囲」の捉え方が異なるため、それを意識した実効性のあるガイドラインを作っていくことが大きな課題になるものと思われます。

※本内容は、2018年6月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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