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業種特化社労士の視点から(第10回『IT業界編』)

<成澤 紀美 氏>

その業界の(過去)、現状と未来について

IT業界とひとくくりに表現されることが多いようですが、実は様々な業種・職種が混在している業界になります。業界構造からみると、主に大きく5つのタイプに分けられます。

①ハードウェア業界

コンピューターメーカー、携帯端末や周辺機器のメーカーなど。パソコンを始めとするコンピュータを構成している電子回路や周辺機器を扱う業界。現在では、インターネットの利用拡大に呼応し、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、さらに各種ゲーム機なども含まれます。 これまではインターネットといえば、パソコンで行うものと決まっていましたが、現在では前述の様々な携帯端末に加え、さらに「情報家電」と呼ばれるネットワークに繋がった「冷蔵庫」や「エアコン」などの家電も登場し、ハードウェア業界の幅はさらに広がってきました。

②SI業界(情報処理サービス)

システム・インテグレーションの略で、顧客向けの情報システムの企画、構築、運用などの業務を請け負う業界を指し、システムインテグレーターとは、これらの業務を一括して請け負う企業のことをいいます。システム・インテグレーションの仕事は、顧客の要望や課題を分析し、ITシステムを使ったソリューションの企画・提案を行う上流工程から、詳細なシステム設計・プログラミング開発というようにITシステムを実際に作りこんでいき、さらにテスト・保守運用などを行う下流工程へと 仕事が流れていく形でシステムが構築・開発されるもので、そこには多くの技術者が必要とされます。 この業界は、システムインテグレーター、コンサルティングファームやソフトハウスなどが含まれ、業界構造の特徴から、下請け企業での二重派遣、残業代未払いや過重労働からくるメンタル不全者を抱える業界でもあります。

③パッケージ・ASP業界

Windows・Linux・Macなどのコンピュータを動かすためのオペレーティングシステム(OS)と呼ばれる 基本ソフトや、ワープロソフトのWordや表計算ソフトのExcelなどのアプリケーションソフトの開発に よるビジネスを行う業界です。 開発したソフトウェアを製品化(パッケージ化)して販売したり、Web経由でシステムを利用できるようにし、毎月の使用料を課金・徴収するクラウドサービスなどのビジネスを展開する企業が多いのが特徴です。

④ネット関連サービス業界

インターネット広告、オンラインショッピング、音楽・映像配信、ポータルサイト運営、オンラインゲームなど、インターネットが普及するとともに急成長している業界です。 ブログ、twitter・facebook・LINE・InstagramといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)など、様々な新しいサービスが生まれており、新規参画企業も多く、それ故に盛衰が激しい一面もあります。 設立から短期間にIPO(株式公開)を果たすような急成長をする企業もあり、注目の業界といえましょう。 しかしながら一方で、会社自身が若く、労働各法をあまり意識せず、時間管理に囚われない働き方を求め過ぎるあまり、年俸制の扱い・残業代未払い・休日の扱いなどでの労務トラブルが起きやすいといったリスクも孕んでいます。

⑤通信・インフラ業界

インターネットへの接続サービス、サーバの構築など、コンピュータシステム利用を可能にする環境設備を整えるサービスを提供している業界です。全ての情報通信サービスの要になっているのがこの「通信・インフラ業界」といえます。 資本力が必要なため、大手企業が出資母体となっているケースが多く、また新興市場へ上場している企業も比較的多いのが特徴で、出資母体や上場の影響により、コンプライアンス(法令遵守)が守られている企業もよく見られます。 この業界構造は建設業界にも似ているといわれており、コンピューターメーカーやシステム・インテグレーションをトップとした元請けから、二次請け~三次請けの開発会社へ発注するという多重構造になっています。 中小規模の開発会社が大規模システム構築をエンドユーザ企業から直接請け負うには、取引の信用性、資金力や技術者の確保の面で困難とされます。大規模システムは長期に渡り開発を行うことから、多くの技術者が必要であり、とても1社だけで集められるものではありません。 これらの理由から、通常は、大手システム会社がエンドユーザ企業からシステム構築案件を受注し、これを中小規模のシステム会社に開発の一部を発注する多重下請け構造になっているのです。 またIT業界で働く人たちの職種は多種多様で、なおかつ仕事内容の範囲も曖昧です。業界や業務内容によって、単にプログラマーやシステムエンジニアというだけでなく、ディレクター、プロジェクトマネージャー、ITコンサルタント、セキュリティエンジニア、ネットワークエンジニア、コンテンツクリエイターなどと、多岐にわたった職種と呼称が使われています。 IT業界は今後も拡大・成長が見込まれる業界であり、法律が後追いとなるようなビジネスが次々と生まれ、労務管理の面でも多様な働き方に対する知見が求められると考えています。

なぜその業種に特化しようと思ったのか、接点や想い、ビジネスの可能性についてなど

正直にいえば、当初よりIT業界に特化した事業を展開しようと考えていたわけではありませんでした。振り返ってみたとき、IT業界の顧問先が多かったという事実から、業界特化を打ち出すようにしたのが始まりです。 なぜIT業界の顧問先が多かったかといえば、自分が元々SE出身だったということがあります。IT業界ではエンジニアなどの技術者が多く、仕事をしていても、その業界ならではの「業界用語」が飛び交います。特にカタカナ用語が多く、契約形態も業界特有なものが多いためか、顧問先企業の方からも「業界を知らないと、いちいち説明をしないといけないのが煩わしい」との声が聞かれます。その障壁が無かったことが、顧問先企業の方との距離を大きく縮めてくれました。 ビジネスの可能性からみれば、拡大・発展が続く業界であることは間違いありません。この業界に関わっていることで、人事労務管理の観点からも、常に新たな考え方や手法に対する知見を求められるため、労働各法の知識はもとより、様々な角度から法違反性を考慮し具体的なアイデアを出し続けていかなければならず、これが自身のブラッシュアップにもつながると考えています。 また業界に特化することで、他社の事例も多く集まり、これを活かして新たな提案をしていくことができますし、就業規則など諸規程も業界向けとして、常に整備ができるというメリットもあります。 さらにはIPO(株式公開)を目的とした、労務デューデリジェンスや労務管理手法の整備など、企業の将来を見据えた人事労務管理に携わることができるのも、大きな刺激になります。

労働環境などの特殊な点、それに対する関わり方、行っている取り組み

労務管理の面では、企業の成長度合いにより課題も異なってきます。 スタートアップ時点では、社員も少なく社長の想いや熱量に共感した者が集まっている状態が多いため、労務管理という観点もあまりありません。そのため、将来を見据えた人事労務面でのフォローが必要になります。なかにはスタートアップより前述のIPO(株式公開)を見据えているケースもあり、この場合は、企業設立当初からしっかりとした労務管理を行う必要があります。 10名以上の規模になってくると就業規則の整備等が求められてきますが、よくあるのは、労働時間管理の方法と賃金体系の考え方が混在してしまっているケースです。いわゆる年俸制と裁量労働制がごっちゃになっているというものです。 社員に仕事に対する裁量をもって働いて欲しい、時間に縛られた働き方を求めていない、と言いつつも、そこには労働法令の壁がありますので、法律に反しない形で、いかに企業の思想にマッチした働き方のしくみを作っていくかがポイントになります。 一定規模以上の企業になるとコンプライアンスが重要視されますので、昨今の過重労働問題やハラスメント対策など、一般企業と変わらない人事労務管理の課題解決を支援していくこととなります。 業界の特殊性としては、労働時間管理の手法の検討(専門業務型・企画業務型裁量労働制、フレックスタイム制、テレワーク)、プロジェクトマネージャーという立場の働き方と管理監督者性の判断、新しい業種・職種に対する労働各法の適用などを、常に求められる傾向にあります。

自身の関わりによって今後、その業界をどのようにしていきたいのか

IT業界は、事業展開のスピードも速く、世の中を牽引していく魅力ある業界です。 その一方でIT業界は「3K(キツイ、きりがない、帰れない)」と揶揄されることもあり、ある意味、厳しい面がある業界でもあります。 人事労務管理の観点からすれば、法律が後追いになってしまいがちで、そこに実態との乖離が生じてしまい、気付かないうちに法律に反している状態になりがちです。 我々社会保険労務士は、人事労務のプロとして、この業界でも多様な働き方の仕組みづくりに関与できる資格であることを自覚し、単に法律家としての意見を述べるのではなく、実務家として法律を理解したうえで対策を講じるべきかを企業と一緒に考えていくべきであると考えています。 常に新たなチャレンジを続けている魅力ある業界に関われることはとても幸せです。

※本内容は、2018年4月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人スマイング代表社員
特定社会保険労務士 成澤 紀美 氏

株式会社スマイング取締役。
弘前大学人文学部卒業。大手システムインテグレーション企業・外資系物流企業・住宅建設不動産企業でシステムエンジニアとして10年以上にわたり技術開発・システム設計を担当。人事管理システムの構築を行ったことがきっかけで人事労務に興味をもち、人事労務コンサルティングを行う。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。企業の視点に立った労務管理セミナーや研修を行っている。
著書に「IT業界人事労務の教科書」他に「企業実務」、「労務事情」、「@IT自分戦略研究所」のコラム等執筆多数。

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