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ダイバーシティの現場から…(第3回『障害者編』1)

<若林 忠旨 氏>

■障害者雇用の基礎知識

数年前まで大企業が中心と思われていた障害者雇用の分野ですが、昨今は中小企業などでも取り組みに積極的な企業が増えてきています。また、雇用を促進するのみにとどまらず、継続して就労できる職場環境の整備を進めるため、平成25年6月に「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、「障害者雇用促進法」)」が改正され、平成28年4月に施行されました(法定雇用率の見直しは、平成30年4月1日施行)。まずは、この改正法についてご説明します。

1.法定雇用率の算定基礎の見直し(平成30年4月1日施行)

現在、2.0%(国、地方公共団体等は2.3%・都道府県等の教育委員会は2.2%)とされている障害者の法定雇用率が、平成30年4月1日から2.2%(3年を経過する日より前に2.3%)に変更されることが決定しました。また、今回の改正から算定基礎の対象に、新たに精神障害者を追加しています。精神障害者の常用労働者数や求職者数は年々増加しており、これを算定式にそのまま当てはめると法定雇用率の大幅な上昇が見込まれるため、今回の引き上げ分については、本来の計算式で算定した率よりも低くする激変緩和措置が取られ、次回の見直しとなる平成35年4月1日以降から、身体障害者・知的障害者・精神障害者を算定基礎として計算した率とすることになっています。

2.障害者に対する差別の禁止(平成28年4月1日施行)

雇用の分野における障害を理由とする差別が禁止されました。 基本的な考え方として、①すべての事業主は、障害者とそうでない者に労働者の募集および採用で均等な機会を与え、②賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇で不当な差別的取扱いをしてはならない、とされています。 差別禁止の対象は、①募集および採用、②賃金、③配置(業務の配分および権限の付与を含む)、④昇進、⑤降格、⑥教育訓練、⑦福利厚生、⑧職種の変更、⑨雇用形態の更新、⑩退職の勧奨、⑪定年、⑫解雇、⑬労働契約の更新といった、労働に関するすべての分野が網羅されます。 ただし、以下のようなことは差別に該当しないとされます。 ①差別を積極的に是正する措置として障害者を有利に取り扱うこと ②合理的配慮を提供して労働能力等を適正に評価した結果として異なる取扱いをすること ③合理的配慮の措置をした結果として異なる取扱いになること ④障害者としての採用選考や雇用管理上必要な範囲で障害者の状況等を確認すること

3.合理的配慮(平成28年4月1日施行)

事業主に障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることを義務付けました。 基本的な考え方として、①障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべきである、②事業主の義務、③採用後に必要な注意を払っても障害者であると知ることが出来なかった場合には、事業主は合理的配慮の提供義務の違反に問われない、④合理的配慮に係る措置が複数ある場合には、事業主は障害者との話し合いで提供しやすい措置を講じてもよい、⑤障害者の希望する合理的配慮の措置が過度に負担になるときは、事業主は話し合いの上で過重な負担にならない範囲で措置をする、⑥事業主や同僚などが障害者特性に関する正しい知識を得て理解を深めることが重要であること、などとされています。

(1)求められる合理的な配慮の違い

会社に求められる合理的な配慮にはいくつかあり、まず、募集や採用時に求められる合理的配慮は、「均等な機会を確保するうえで支障となる事業を改善するため」に、障害者からの申出によって、障害者の事情により配慮の必要な措置をすることになります。また、採用後に求められる合理的な配慮は、「均等な待遇の確保や能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため」に、事業主は職務の円滑な遂行に必要な施設の整備や援助者の配置などを行うこととされます。

(2)過重な負担について

会社に求められる合理的な配慮の内容は広範にわたることが予想されるため、事業主に過重な負担を及ぼす場合は、合理的配慮の提供の義務から除外することが出来ます。この過重な負担の判断は、①事業活動への影響の程度、②実現困難度、③費用・負担の程度、④企業の規模、⑤企業の財務状況、⑥公的支援の有無、などの要素を総合的に勘案して事業主が個別に判断することとされています。 なお、会社は障害者から申し出があった合理的配慮の措置が過重な負担に当たると判断した場合には、それが実現できないことを障害者に伝えて、その理由を説明することが必要となります。

(3)相談体制の整備

会社は、障害者からの相談に適切に対応するために、①相談体制を整備して適切な対応をする、②相談者のプライバシー保護についての配慮とそのことを労働者に周知し、③相談したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをしない旨を規定して周知・啓発することなどの措置を講じる必要があります。

■社労士としてのアドバイス  -改正障害者雇用促進法への対応-

障害者に対する差別の禁止や合理的配慮義務はすでに施行されていますが、会社としてはまだまだ手探りで対応している部分が多いのが実情のようです。平成30年4月1日から障害者雇用率が2.2%となり、その増加率は0.2%という数字ですが、実際には民間企業だけでみても約8万人の障害者雇用を行う必要があり、雇用率達成をするために、企業担当者は新たな障害者の求人をしている状態だと思います。 また、今年の6月に内閣府から発表された「2017年版障害者白書」によると、精神障害者が身体障害者・知的障害者を統計公表後初めて上回りました。昨今、精神障害者の求職・就職件数が増加しており、逆に身体障害者・知的障害者は横ばいか、減少傾向にある状況を鑑みると、これから障害者雇用で応募がある求人は精神障害者が圧倒的に多くなるという状況が予想できます。その場合、企業で正しい知識が理解されていないと、不要な法違反を犯すリスクも考えられます。特に、合理的配慮の内容は、障害者個々人の障害の度合いや障害特性に応じた配慮が求められ、また、会社によって配慮に該当するかどうかの事情も異なります。そのため、厚生労働省のホームページには、指針やQ&A、事例集が公開されており、また、内閣府のホームページにも合理的配慮のリーフレットが公開されています。

- ・厚生労働省ホームページ「平成28年4月(一部公布日又は平成30年4月)より、改正障害者雇用促進法が施行されました」

・内閣府ホームページ「障害者差別解消法リーフレット」

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事例集は第三版が公開されていますので、こういった事例やQ&Aを参考に自社の事例を検討してみるとよいでしょう。重要なことは、会社として障害者からの申し出に対して「資金的に難しい」などと安易な対応をせず、しっかりとした判断が求められることを意識する必要がある点です。 また、現場で日々、障害者の仕事をマネジメントする役割を担っている管理職の方には、法改正の内容の理解を促し、障害者の方から相談や申し出を人事等に情報連携させるような体制や制度も検討しなくてはなりません。 これからますます労働人口の減少が続くことが予想されており、一部の大企業だけでなく中小零細企業が経営を維持するためにも、障害者の採用検討が避けて通れない時代になるでしょう。社労士は雇用のプロフェッショナルとして、単なる義務の履行ではなく日常的に働く仲間づくりとして関わっていく必要があると思います。

(次号につづく)

※本内容は、2017年10月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人 東京中央エルファロ共同代表
特定社会保険労務士 若林 忠旨 氏

埼玉県越谷市出身。東証一部上場の金融機関にて営業企画、法人営業に従事。その後、法務部門にて関連会社の立ち上げや企業法務を経験するも、慢性腎不全により退職。人工透析を開始後、障害者雇用にて信販会社に就職。その後、障害者転職支援会社を通じて、損害保険会社の監査部に転職。財務、人事労務、システム監査等を経験する。平成24年社労士4名にて社労士法人を設立。介護事業所のサポートを中心に活動するとともに、自身の経験を生かし、障害年金請求業務や障害者雇用を進める企業のサポート業務、就労移行支援事業の立ち上げ支援などに尽力している。

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