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法令改正最前線(第28回『雇用保険法改正の動向』)

<滝 則茂 氏>

雇用保険法の改正については、皆さんご存知のように、本年の3月に「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が成立しています。この法改正は、昨年の12月25日付で公表された「労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会報告」を踏まえたものでした。報告の内容は多岐にわたっており、その後、二段階で法改正が行われることになりました。 今回は、本年3月に成立した第一段階での法改正ではなく、現在、労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会(以下、「部会」とします。)で審議中の第二段階の法改正を取り上げることとします。

1.法改正の論点

9月5日の部会に提出された資料によれば、「雇用保険部会の主な論点(案)」として、以下の事項が掲げられています。

  • ------------------------------
  • ①基本手当の水準
  • ②平成28年度末までの暫定措置 のあり方(個別延長給付等)
  • ③就職促進給付
  • ④財政運営
  • ⑤その他 ・マルチジョブホルダーへの対応 ・雇用継続給付 ・求職者支援制度  等
  • ------------------------------

本稿においては、①との関連で「賃金日額の下限額の引上げ」、⑤の「マルチジョブホルダーへの対応」について紹介します。

2.賃金日額の下限額の引上げ

9月30日の部会に厚生労働省が提出した資料によれば、最低賃金(全国加重平均額)で週20時間働いた場 合の賃金日額(823×20÷7)は、2,351円となり、この金額は、現行の賃金日額の下限額(2,290円)、法定 の下限額(2,320円)を上回ることになります。雇用保険がセーフティーネットのための制度であることを考慮すると、このようなアンバランスは問題です。実は、現行の法定の下限額(平成23年度から適用されています。)も、当時の最低賃金とのバランスを欠くということで改定された額であり、最低賃金とのアンバランスは速やかに解消すべきだとする考え方は、相応の説得力があると思われます。改正法案の中に盛り込まれる可能性は高いとみてよいでしょう。

3.マルチジョブホルダーへの対応

近年、複数の雇用契約を結び、一定の期間内に二以上の事業場で働くマルチジョブホルダーが増加しつつあります。このような働き方を選択すると、現状では、2以上の雇用関係のうち、当該労働者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける一つの雇用関係についてのみ、雇用保険の被保険者となります。この基準では、トータルでは、週20時間以上勤務する者であっても、主たる賃金を受ける一つの雇用関係の週所定労働時間が20時間未満であれば、雇用保険の適用がありません。また、一つの雇用関係が解除されたとしても、他の雇用関係が被保険者となり得る形で維持されていれば、雇用保険の保険事故である「失業」には該当しないものとされ、給付は行われません。 部会では、こういった問題点につき、マルチジョブホルダーの実態に関するデータを踏まえ、検討が行われています。ただ、このテーマについては、雇用保険の適用の在り方に関わるものであり、次期法改正には間に合わない公算が強いのではないでしょうか。

4.今後の見通し

年内に部会が次期法改正に向けた建議を取りまとめる予定になっていますので、これによって改正法案に盛り込まれる事項がほぼ明らかになります。その後、来年1月に召集される通常国会に改正法案が提出される見込みです。特に与野党が対立する案件とは思えないのに加え、暫定措置の取扱いのように4月からの施行が必要となる事項も含まれていますので、年度末までには改正法案が成立すると思われます。

※本内容は、2016年12月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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