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業種特化社労士の視点から(第31回『旅客自動車運送事業編』)

<川田 政 氏>

業界の現状

旅客自動車運送事業は、道路運送法で「他人の需要に応じ、有償で自動車を使用して旅客を運送する事業」と規定されており、タクシー、ハイヤー、バスが該当しています。
それぞれ若干の違いはありますが、今回はタクシー業界をご案内いたします。

・近年の経営環境
タクシー業界は、平成14年に大幅に規制が緩和され、増車が許可制から事前届出制となりました。そのためタクシー車両数が増え続ける一方、運送収入は減少傾向が続き、平成21年には規制緩和から一転して規制強化に転じました。自主的な減車が要請され、東京では各社が20%の減車を要請されるほどでした。近年では依然として輸送人員の減少傾向は続くものの、業界全体の慢性的なドライバー不足により稼働台数が少ないため、1台当たりの売上は増加していますが、総売上は減少し経営としては厳しい状況となっています。<br<br
・慢性的な人手不足とドライバーの高齢化
直近10年間はドライバーが減少し続けています。また従業員の高齢化は日本全体の課題になりますが、タクシー業界は特に顕著です。ドライバーの平均年齢は59.5歳となっていますが、約半数は60歳以上となっており、このままの推移では数年後には3分の1を占めると予測されます。

・業界の未来
自動運転技術が進む世の中でも、「その時その場そのお客様」への対応が可能なドライバーが運転するタクシーは、地域公共交通として必要不可欠との思いで、各社は生き残りをかけ「ドライバーのサービス品質向上」、「Maas(シームレスな移動)社会を目指す」、「キャッシュレス決済の導入促進」など付加価値をつけ、進化したタクシーを目指しています。

タクシー業界の特徴と対策

他の業界と比べると特殊な部分が多々ありますが、特殊な部分を理解して対応出来れば顧問先の獲得につながるかもしれません。また余談ですが、業界用語がたくさんあり、顧問先の担当者は普通に業界独特の用語で問い合わせをしてきます。業界用語にも慌てずに対応できれば、より信頼関係を築けることでしょう。

・勤務ダイヤ
タクシーで思い浮かぶのは1日おきの勤務、隔日勤務ではないでしょうか。その他に、昼間だけの昼日勤、夜だけの夜日勤があります。同じ昼日勤でも労働時間が1日目は8時間、2日目は10時間、3日目は13時間など様々な種類があります。また同じ隔日勤務でも、30種類以上のダイヤのパターンがあります。例えば(業界用語)3s3s3wと言われれば、下表の通り9勤務4休になり、22日間で変形労働時間を組みます。Sはシングルで公休、Wはダブルで公休、Tはトリプルで公休を意味します。<br

・労働時間
「自動車運転者の労働時間等の改善基準」により、労働時間のみではなく拘束時間も含めて管理をします。隔日勤務は一日あたり原則最大21時間の拘束が可能です。
例) 所定労働時間15時間+休憩3時間+時間外3時間=21時間
1か月あたりでは原則最大262時間の拘束が可能です。その他はここでは割愛しますが、改善基準はタクシーに限らず、バス、ハイヤーにも適用されますのでご注意ください。
また、自動車運転者は、時間外の36協定届は「様式9号の4」を使用します。時間外上限の1年720時間の対象外のため、1,000時間超えで届を提出している会社も多々あります。

・賃金
ドライバーの賃金については歩合給が中心となるのが一般的です。歩合給の定め方は多種多様ですが、従来これらを分類する場合、基本給、歩合給、賞与又は退職金制度の有無、内容と関連付けてA型、B型、AB型賃金などの用語が使われております。

A型……月例賃金は基本給、諸手当及び歩合給として他に賞与や退職金制度があるもの。
B型……A型賃金から賞与、退職金制度を廃止し、その分を月例賃金に含めて支給するもの。オール歩合の場合が多い。
AB型…B型賃金の月例賃金を下げて、その分を賞与で支給するもの。

・対策
前述したようにタクシー業界の賃金は歩合給が中心となり構成されています。仮にオール歩合制だったとして、売上の50%を賃金とする場合、売上50万円では25万円が賃金となります。では効率よく仕事をして定時で帰るドライバーが25万円、効率悪く残業をして売上50万円をあげてくるドライバーが残業代を含めて27万円の賃金となる。
これで良いのかということで、時間外手当を支払わず、その分を歩合で還元するのが業界の構造的な慣習となっていました。この業界の慣習と労基法の隙間を埋めるために工夫してきた賃金のしくみが、国際自動車事件(最高裁判決令和2年3月30日)で全面的に否定されました。
この裁判が強烈な影響となり、会社とドライバーでの時間外賃金をめぐるトラブルが非常に多くなっています。またコロナ禍により、歩合給が最低賃金額を下回るなど、最低賃金の支払いについてのトラブルも増加しています。
このような状況から賃金規程の改定依頼が多いのですが、1社あたりかなり時間がかかるため、すべて受託することが出来ません。弊所でも一度に3~4社ほどで半年以上お待ちいただいています。他の先生に依頼すればよいのですが、残念ながらタクシー業界に精通した先生が少ないのが現状です。この賃金規程の改定依頼を受託するためには業界の特徴を理解する必要があります。今回ご案内した以外の労働時間等の改善基準や旅客自動車運送事業運輸規則などもおさえておくのが良いと思います。そのほか、営業中の事故や苦情、違反などによる懲戒処分や試用期間中の解雇をめぐるトラブルも多々あります。雇用契約の書類や就業規則なども、本当にあらゆる問題を想定して作成されているのも業界の特徴です。また未経験者のドライバーを雇用すると、二種免許の取得費用(20万円前後)がかかりますが、会社が負担して助成金を活用する場合もあります。最低限の雇用関係助成金の知識も必要になります。

旅客自動車運送事業へのアプローチ

旅客自動車運送業のタクシー業界についてご案内しましたが、タクシー会社だけでも全国で6千社を超えています。特殊性はありますが、理解すればバス、ハイヤーは勿論ですが、貨物自動車運送事業にも応用が利き、顧問先拡大につながるかと思います。この機会にぜひ、旅客自動車にも興味を持っていただければと存じます。

川田社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士 川田 政 氏

自動車事故対策機構第一種講師。日本産業訓練協会第109期MTPインストラクター。
東京大手の旅客自動車運送事業会社(タクシー、バス、ハイヤー)に21年間在籍。運行管理者として年間2,000件以上の事故渉外対応、ドライバー採用・研修担当時は新卒中途合わせて10,000人以上の求職者と面接。2019年に独立後は社会保険労務士として労務相談を中心に、経営コンサルティングや事故防止、運行管理者育成研修などで全国のタクシー事業者のサポートに携わっている。

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