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業種特化社労士の視点から(第30回『スーパーマーケット編』)

<田中 理文 氏>

私は10年程前から、全国の中小スーパーマーケット(以下「スーパー」という)向けに毎月開催される集まり(勉強会や情報交換などを目的とする)において、労務関連セミナーと相談を担当しています。そのことから、多くのスーパーと接する機会を持つことになりました。
いわずもがな、スーパーは大変に身近な存在で、ほとんどの方が買い物をした経験があるでしょう。いつも笑顔で明るく接客をしてくれますが、内部の労務管理には多くの課題があります。本稿では、社労士によるスーパーへの支援についてお伝えします。
まずは、業界の概要、続いて会社、店舗の特徴から説明していきます。

業界の概要
全国には1,200社を超えるスーパーがあります(一般社団法人全国スーパーマーケット協会の会員企業数)。全国の店舗数は22,610店舗(2021年5月時点 前年比1.7%増)、1店舗あたりの従業員数は13~14人程度と言われています。 

各社・各店舗の特徴
スーパー各社には次のような特徴があります。

1.従業員が多い(他業種の中小企業との比較)。
2.パートでも複数の雇用形態があり、働き方が多様、複雑である。
3.仕事の中心は店舗なので、本社ではトラブルの前兆をつかみにくい。
4.生活必需品を提供する事などから社会的責任を強く意識している。
5.体系的なスキル教育が整備されている会社も少なくない。

左記のうち1から3が要因で、労務トラブルが起こりがちです。また、4の意識から、法改正や社会的なニーズに対応しようとする姿勢があります。例えば、託児施設を設けて近隣の子供も預かるスーパーや、障害者雇用に力を入れているスーパーもあります。
また、労務管理上のトラブルは、その多くは店舗で発生します。店舗の特徴としては次が挙げられます。

1.様々な属性(育児などで働く時間に制約のある人など)の人を雇用している。
2.店長が必ずしも労務管理の知識を持っている訳ではない。
3.店舗が平時は地域交流の場となり、災害時には重要なライフラインとなる。

店舗は地域社会において買い物をするだけの存在ではありません。住民に向けたイベントを行ったり、店員と地域住民とのコミュニケーションがなされたり、その存在感は大きなものがあります。

社労士が支援すべきは中小スーパー
労務管理のレベルはスーパーによって大きく異なります。トップが労務管理の重要性を充分に認識して、人材・予算などを人事総務部門に割り当てている会社もあります。
一方で、充分な人材・予算が無いスーパーも少なくありません。これらスーパーの総務担当者は日常業務に時間がとられ、同業者の集まりに参加して情報収集する事や、労働法関連の法改正の確認などに充分な時間を取れないと考えられます。そして、このような会社にこそ労務問題が多く潜んでいます。
社労士としては、全国展開する大手スーパーではなく、地域密着型の中小企業である食品スーパー(数店から十数店の規模)、特に人事総務部門の人材が不足しているスーパーの支援をする事に意義があると考えます。 

最近の課題と対策
以下は、ここ1~2年で業界として直面している主な課題です。合わせて対策の一例も記しておきます。これを見るとスーパーは労務問題を網羅している観があります。 

〇同一労働同一賃金への対応
 厚労省の「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル スーパーマーケット業界編」を利用して
 対応を進める(ワークシートを用いての検証作業)。
〇産業雇用安定助成金を活用しての他業界からの出向者受け入れ
 各地の産業雇用安定センターと連携して進める。但し、人材のマッチングが難しい。
〇「エッセンシャルワーカー」として新型コロナウイルスの感染予防
 (店舗の衛生管理のみならず従業員の安全確保も図る必要がある。)
 マスク不足の時期に会社からマスクを配布する。レジ担当者に特別手当を支給する。
 新型コロナワクチンの職域接種を行う。
〇各種ハラスメント対策 (特にカスタマーハラスメント)
 動画によるハラスメント防止教育を行う。カスハラを行う利用者には複数で対応する。
 本部で相談窓口を設ける。 
〇技能実習や特定技能の外国人受け入れ (惣菜加工部門等で受け入れ)
 円滑に受け入れるためのマニュアルを作成して、該当部署に周知する。 
〇人材の確保 (これは恒久的な問題)
 同業や人材会社等から最新の求人手法などの情報を入手して、効果的な方法を常に模索する。
〇従業員の高齢化を受けての健康管理や労災防止
 体力に応じて勤務シフトを調整する。エイジフレンドリーな職場をつくる。
 従業員自身に体力や反応速度が落ちていることを自覚してもらう。 
〇頻発する労災(転倒、切創)の防止
 各店舗でヒヤリハットや労災事故の情報を共有する。動画による安全教育を行う。 
〇自然災害が増える昨今、地域インフラとしての使命と従業員の安全確保の両立
 (時に自社店舗が水害はじめ被害に遭うこともある。)
 緊急時の対応マニュアルを整備する。定期的に避難訓練を行う(利用客を誘導する訓練も含む)。 
〇社会保険の適用拡大への対応
 パート・アルバイトの意識調査・希望聴取をした上で、社保適用または就労時間の調整を図る。 
〇有期雇用5年超えでの無期雇用転換への対応
 有期雇用の上限は5年以下として、優秀な人材は早い段階で新たな雇用形態としての無期雇用に
 転換させる。 
〇いわゆる「バイトテロ」やSNS利用についての対策
 定期的な従業員研修(特に学生バイトは入社時にも研修)を行う。社員が不在となる時間帯を作らない。

労務管理面の特徴
総務担当者は店舗出身者である事が多いです。現場の事を理解している上、次々と発生する課題や労務問題に対応しているため、他業界の総務担当者に比べて問題処理に長けている印象があります。
また、労働基準法なども現場に即した解釈で運用して、こちらが気付かされるケースもよくあります。従って、一般的な問題は自社で解決できる事が多く、社労士に寄せられる相談は、複雑なもの、難しいものが少なくありません。 

スーパー業界に関わるために、私が心掛けていること
前述した課題に一通りの解決案を提示できることが必要です。私がスーパー業界に関わり始めた頃は、どのような質問がされるか見当がつかず、相当の緊張感を持ってご相談を受けていました(これは今でも変わりません)。
スーパー業界出身の社労士も少なくないと思いますが、現場を知っているという事で、大変な強みになると思います。私はスーパー出身ではないため、各社からの相談内容や業界関係者との情報交換によって、少しでも実情を把握しようと努めています。 

提供できるサービスの例
スーパーには、通常の労務相談の他に、次のような業務を提案すると良いのではないでしょうか。
・店舗ごとの定期巡回に同行する。  (その際にチェックリストを作成する。)
・店長会議などで労務関連の情報発信をする。  (関心の低い人もいるので短時間で必要な事を簡潔に発信。)
・衛生委員会への参加  (労災防止、高齢者へのケア)
・人事労務関連の会議への参加  (法改正など次々と発生する課題への対処)
・ハラスメントの外部相談窓口となる。  (男女の相談担当者がいることが望ましい。)
・助成金の活用(従業員数は多いが、資本金が5,000万円以下という条件で助成金の対象となる。丁寧に複数の案件を拾い出せば、合計で大きな受給額となる可能性あり)

最後に(社労士としての取り組み)
前述したように、中小スーパー(数店から十数店)の支援をすべきと考えます。相談を待っているのではなく、法改正や社会情勢の変化などに応じて、スーパーとして取り組む課題を可視化、合わせてその具体的な解決案を提示して、総務担当者と二人三脚で進めていくと喜ばれると思います。
本稿が、スーパーを積極的に支援していこうと考える方のご参考になれば幸いです。

社会保険労務士 田中事務所
特定社会保険労務士 田中 理文 氏

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。会社勤務を経て、1996年に27歳で開業しました。事務所では手続き・給与計算・助成金と一通り対応していますが、私自身はここ数年、労務相談とセミナー講師に力を入れています。また、最近は社労士診断認証制度を広めていきたいと考えています。

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