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法令改正最前線(第49回『「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書』)

<滝 則茂 氏>

今回は、5月15日に厚生労働省から公表された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書について紹介します。

1.本報告書が登場した経緯

労働施策総合推進法の改正により、2020年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されること等を踏まえ、厚生労働省は、精神障害の労災認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」)の見直しを行うべく、専門家による検討会を立ち上げました。検討会は、昨年の12月から計5回開催され、この度その検討結果を報告書の形で取りまとめ、公表しました。

2.検討の視点

現行の認定基準では、「パワーハラスメント」という用語は用いられていませんが、パワーハラスメントに該当する事実については、別表1心理的負荷評価表の出来事の類型「対人関係」の中の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」具体的出来事として評価されてきました。したがって、今回の認定基準見直しは、パワーハラスメントに係る出来事を新しく評価対象として加えるものではなく、法制化に伴い職場における「パワーハラスメント」の定義が法律上規定されたことを踏まえ、同出来事を心理的負荷評価表に明記するととともに、これに伴って整理を要すると考えられる心理的負荷評価表の項目につき必要な改定を行うものです。その狙いは、評価表を明確化、具体化することで、労災請求の容易化、審査の迅速化を図ることにあります。

3.報告内容のポイント

<具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加>

心理的負荷評価表の「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加し、「具体的出来事」として「上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加します。また、心理的負荷の強度を「強」と判断する具体例として、たとえば、以下のようなものが紹介されています。

  • ・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
  • ・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
  • ・上司等による人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた場合

<具体的出来事の名称の変更>

「対人関係」の中に位置付けられていた「具体的出来事」の一つである「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」を「同僚等から暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正します。これは、パワーハラスメントに該当しない、優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等を評価する項目として機能します。また、心理的負荷の強度を「強」と判断する具体例として、たとえば、以下のようなものが紹介されています。

  • ・ 同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた場合
  • ・ 同僚等から、暴行等を執拗に受けた場合
  • ・ 同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた場合

4.今後の流れ

厚生労働省は、この報告書を受け、速やかに精神障害の認定基準を改正するとしています。パワハラ法制化の施行期日が6月1日ですから、早急に改正が実現するものと思われます。 (本稿は、2020年5月15日時点での情報となります)

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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