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法令改正最前線(第47回『労働基準法改正に向けての動向』)

<滝 則茂 氏>

今回は、「賃金等請求権の消滅時効」に関する労働基準法改正法案を取り上げることとします。

1.これまでの経緯

短期消滅時効の廃止など、民法の時効制度の改正(本年4月1日施行)との関連で、賃金等請求権の消滅時効(労基法115条)をどうするかが問題となり、これまで、以下のような経過をたどってきました。 まず、厚生労働省が、2017年12月に「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する研究会」を立ち上げました。この学識経験者による研究会で検討が行われ、昨年の7月に「論点の整理」という形でその成果が公表されました。その後は、舞台を労働政策審議会労働条件分科会に移し、公労使の三者の委員による検討が行われ、昨年の暮れに報告書がまとまり、労政審から厚生労働大臣に建議がなされました。 この建議を受け厚生労働省は「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」を作成し、本年1月10日に、労働政策審議会に諮問を行いました。この諮問に対し、労政審は、「概ね妥当」と答申を行ったことにより、改正法案提出に向けての準備が整ったことになります。 本稿が世に出るころには、政府から「労働基準法の一部を改正する法律案」が国会に上程されているものと思われます。

2.法律案要綱の内容

現在公表されている「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」は、以下の5つの項目によって構成されています。

①労働者名簿等の書類の保存期間の延長(法109条の改正)

  • 労働者名簿や賃金台帳など、労働関係に関する重要な書類の保存期間を3年間から5年間に延長します。

②付加金の請求を行うことができる期間の延長(法114条の改正)

  • 違反があったときから2年という期間制限を5年に延長します。

③賃金等請求権の消滅時効期間の見直し等(法115条の改正)

  • 賃金(退職手当を除く)請求権の消滅時効期間を2年間から5年間に延長するとともに、時効の起算点について、「請求権を行使することができる時」であることを明確にします。

④経過措置

  • ①~③の改正事項について、5年(間)に延長すべきところは、当分の間、3年(間)とします。

⑤施行期日等

  • ・民法改正の施行日(本年4月1日)から施行します。
  • ・施行期日前に法114条に規定する違反があった場合の付加金請求期間及び賃金(退職手当を除く)の支払期日が到来した場合の賃金請求権の消滅時効期間については、なお、従前の例によるものとします。
  • ・政府は、施行後5年を経過した場合において、改正後の規定の施行の状況を勘案しつつ、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされています。

3.賃金請求権以外の請求権の消滅時効期間

今回の労基法改正で消滅時効期間が延長されるのは、賃金請求権のみであって、年次有給休暇請求権や災害補償請求権については、現行の消滅時効期間(2年間)が維持されます。この点については、昨年の12月27日に公表された労政審労働条件分科会の報告書に、それぞれの請求権の趣旨を踏まえて説明がなされていますので、これを参照されることをお勧めします。

4.今後の展開

今回の改正法案は、本則上は賃金請求権の消滅時効期間を5年間とすることで、労働側の顔を立てる一方、附則(経過措置)で当面の間は3年間とすることで、使用者側の反発を薄めるという「労使間の妥協の産物」です。政府の目論見通り今国会で法改正が無事成立したとしても、経過措置の期限が明確ではないため、その後も、3年から5年への移行時期が、労使間の課題として存続することになります。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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