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法令改正最前線(第44回『賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)』)

<滝 則茂 氏>

今回は、7月1日の労働政策審議会労働条件分科会で公表された「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」を取り上げます。

1.検討の経緯

短期消滅時効の廃止など、時効制度の見直しをその内容に含む改正民法(平成29年法律第44号)が施行される(2020年4月1日)こととの関連で、賃金等請求権の消滅時効(労基法115条)をどうするかが問題となっています。厚生労働省は、6名の学識経験者による「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を立ち上げ、2017年12月26日から2019年6月13日まで全9回にわたって検討会を開催しました。そして、その成果が「論点の整理」という形で取りまとめられ、公表されるに至りました。

2.見直しの方向性

  • ①賃金請求権の消滅時効期間
  • 現在、労基法115条で賃金請求権(退職金請求権を除く)の消滅時効期間は2年とされています。これは、「使用人の給料に係る債権」の消滅時効期間を1年と定める民法174条1号の特則としての意義を有しています。この民法の規定の廃止を踏まえ、改めて労基法115条の合理性を検討すると、2年という時効期間を今後も維持する合理性は乏しく「労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要」であるとの方向性が示されています。たとえば、一般債権と同様、賃金請求権についての消滅時効期間を「権利行使可能と知った時から5年」(改正後の民法166条1項1号)とするなどの見直しが考えられます。 これは、未払い賃金(特に残業代)を巡るトラブルに際して、賃金の遡及払いの限度がどうなるのかという、労務管理における実践的な問題です。
  • ②賃金請求権以外の消滅時効
  • 賃金請求権以外の請求権については、基本的に「賃金請求権の消滅時効の結論に合わせて措置を講ずることが適当」としつつも、年次有給休暇請求権と災害補償請求権については、改めて検討すべきだとしています。たとえば、年次有給休暇請求権について時効期間を長くすることは、「年次有給休暇の取得率向上という政策の方向性に逆行するおそれ」がある旨が指摘されています。
  • ③見直しの時期、施行期日等
  • 改正民法の施行期日(2020年4月1日)を念頭に置きつつも、一方で、働き方関連法案の施行に伴い企業の労務管理の負担が一層増大するといった意見も踏まえ、速やかに労働政策審議会で検討すべきであるとされています。 また、労基法115条を改正するとして、施行期日以後のどのような債権から適用するのか(労働契約締結日を基準に考えるのか、賃金債権の発生日を基準に考えるのか)という問題も検討課題であるとしています。

3.今後の見通し

既に7月1日から、労働政策審議会労働条件部会にて、本テーマに関する審議が始まっています。先にも述べたように、未払い賃金の遡及払いの期間がどうなるかは、労使にとって、重大な利害に関わる問題ですので、すんなりと話がまとまるとは思えません。とは言っても、在り方研究会の「論点の整理」が示した方向性を無視することもできないでしょうから、賃金請求権の消滅時効期間については、現状よりは労働者にとって有利な形での見直しが実現するものと思われます。 また、施行の時期については、2020年4月というのは、現実的には困難だと思われますので、2021年度以降になる公算が大きいと言えるでしょう。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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