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業種特化社労士の視点から(第17回『障害福祉サービス事業編』)

<高橋 悠 氏>

(1)障害福祉サービスについて

「障害福祉サービス事業」とは、主に障害のある方(18歳以上の身体障害者、知的障害者、精神障害者または難病等対象者)を対象に、その日常生活の支援(例:居宅介護、重度訪問介護、グループホームなど)や就労の支援(例:就労継続支援、就労移行支援など)を提供する事業のことを指します。 また、主に障害児(障害のある18歳未満の方)を対象に、主に日常生活訓練や一時預かりを中心としたサービス(例:児童発達支援、放課後等デイサービスなど)を提供する「障害児通所支援事業」というサービス類型もあり、障害のある方の年齢が18歳以上か未満かによって受けられるサービス内容が異なっています。 障害福祉サービス事業は、厚生労働省が定める指定基準(人員基準、設備基準、運営基準)を満たして都道府県等の許可(指定)を受けた事業者が提供を行っています。市区町村や社会福祉法人が経営主体となっているところも多いですが、近年では特定非営利活動法人(NPO法人)や営利法人(株式会社、合同会社など)の参入も目立ってきています。

(2)なぜ障害福祉サービスに特化したか

私は、はじめは社会保険労務士ではなく行政書士事務所に勤務をし、独立を目指して行政書士の資格の勉強をしながら実務経験を積んでいました。 その事務所で任されたのは「特定非営利活動法人(NPO法人)」の許認可手続でした。顧客とのやり取り、定款、事業計画書などの設立認証申請の作成、官公署とのやり取りなど、現在私が士業として仕事を行っていくために必要な様々な基礎を学ぶことができましたが、このNPO法人の事業として特に多かったのが、介護サービスや障害福祉サービスといった「福祉事業」です。 定款における事業目的や、事業計画書・収支予算書(今は活動予算書ですが)などの書類をきちんと認証を取得できるようにつくるためには、私自身が福祉サービスの法律や経営内容に詳しくなる必要がありました。もちろん、最初はまったくの素人で「介護保険?自立支援法?なにそれ?」と、すべてが手探り状態でしたが、分からない単語をお客様から聞くたびに自分で調べたり、官公署に確認したり、法令や参考書籍を読み込んだりして、徐々に徐々に知識をつけていきました。 そんなことを2~3年積み重ねていくうちに、顧客から「障害福祉サービスの指定申請手続をやってくれないか」更には「法務顧問としてうちのサポートをしてくれないか」という依頼がしばしば舞い込んでくるようになりました。これが現在において当事務所が実施している「指定申請代行業務」や「法務顧問サービス」の原型となっています。 上記のような業務をさせていただくことで、障害福祉サービス事業に対する知識を一層深めることができました。そして、事業所の運営に深く関わっていくうちに、障害福祉サービス事業者がいかに「労務管理」に苦労しているかも分かってきたのです。 障害福祉サービス事業には「人員基準」というものが存在し、その基準を満たす従業員を複数人雇用しなければ障害福祉サービス事業の許可(指定)を受けることはできません。つまり、障害福祉サービス事業所は従業員を雇用しなければ成り立たず、必然的にその経営には「労務管理」が切り離せないものとなっています。しかし、障害福祉サービス事業が本格的に開始されたのは「障害者自立支援法」が施行された平成18年度からで、制度として確立してまだ10年あまりであり、業界としてまだまだ体制が充分に整備されているとは言えない状況です。36協定の未届や就業規則未整備の事業所等も未だ多く、労働基準監督署の立入検査等で指導・改善を求められるケースも珍しくはありません。そのため、自治体側からも労働者側からも労働関係法令の遵守が強く求められているのが現状です。 この時既に行政書士試験に合格していましたが、障害福祉サービスにおける労務管理の必要性を痛感した私は事業者の皆様への労務管理における助言・指導ができるようにと、社会保険労務士の勉強を開始しました。 その社会保険労務士にも無事合格し、障害福祉サービス事業者の方々を対象とした労務顧問サービスを提供できるようになったことで、結果として「障害福祉サービスに精通した社会保険労務士」という業種特化をすることにつながったというわけです。

(3)障害福祉サービス事業の課題と可能性

①障害福祉サービスの抱える課題

障害福祉サービス事業は他の福祉系の業種に比べて比較的利益率が高く、また公費が使用されることから貸倒れのリスクも回避できるため、昨今では営利法人等の民間事業者がビジネスとして目をつけて参入するケースが目立ってきています。特に就労支援サービス(就労移行支援、就労継続支援)やグループホームは基幹人材と場所さえ目処が立てば比較的始めやすいため、新規参入も増加傾向にあります。 しかし一方で、こうした民間事業者の参入が増えると営利を追求するあまりに「福祉」という本来の目的を見失った経営になるのではないか、というリスクも懸念されています。最近では就労継続支援事業所における利用者の集団解雇や放課後等デイサービス事業所においての利用児童への粗雑な対応などが社会問題となっており、厚生労働省や都道府県もこれを受けて指導監査の徹底や法改正による人員基準の厳格化、情報公表の義務付けを行う流れとなっており、事業者には経営力はもちろん、法令を遵守し、福祉の理念を理解することが求められているのが現状です。

②社会保険労務士としての障害福祉サービス事業の可能性

障害福祉サービス事業の基準等が定められた「障害者総合支援法」は、その前身である障害者自立支援法が施行された平成18年からおおむね3年ごとに見直しされており、その都度大幅な制度改正がなされています。 平成30年4月1日からも大幅な改正が実施されており、障害者・高齢者双方が利用可能な「共生型サービス」の導入、一般就労した利用者への支援を目的とした「就労定着支援事業」の新設、放課後等デイサービス事業所等における医療的ケア児への支援体制の拡充や自己評価結果未公表減算の導入などが大きな変更箇所となっており、事業者にはこれを踏まえた事業所運営や事業計画の立案が求められています。更に本年10月には介護職員の待遇改善を目的とした「福祉・介護職員処遇改善加算」に新たな上乗せとして「介護職員等特定処遇改善加算」が加わるなど、障害者自立支援法の施行から10年弱にもかかわらず、激動とも言える変化をしてきています。 しかし、この障害福祉サービス事業を取り巻く環境や法令の変化に対応できている事業者はまだまだ少なく、法改正のたびに現場での対応に追われるのが精一杯というのが現状です。そのため、業界ではこうした法律や法改正の知識に精通した専門家を求めており、私は、ここに社会保険労務士をはじめとした法律の専門家が障害福祉サービスに参入する大きな意義があると考えています。 加えて、社会保険労務士は前述した障害福祉サービス事業者の課題である「労務管理」について助言や支援を行う専門家ですので、業界にとっては尚のこと重要な存在になっていくものと確信しています。

(4)おわりに

私は今でこそ障害福祉サービス事業の支援を専門としてサービスを行っておりますが、前述のとおり最初から何でも知っているわけはありませんでしたし、今でも障害福祉サービスの実情に一番詳しいのは実際に現場におられる「事業所の経営者や従業員の方々」であり、常に私達の方が教えを請う姿勢でいなければならないと考えています。 私達の持つ情報を障害福祉サービス事業所の現場の皆様が「知識」として活かされることで、初めて私達のサービスは完結します。他のサービスでも言えることですが、顧客と協力し、お互いに「補完し合う」ことこそが、良質なサービスを提供する上で非常に重要な要素になるのではないでしょうか。 障害福祉サービス事業は法改正が頻繁にあり、苦労して身につけてきた知識が全く役にたたなくなってしまうことも珍しくはありませんが、だからこそ、この業界は「常に新たな知識を提供してくれる専門家」を求めています。 勉強すべきことも多いですが、その分チャンスも多いのがこの業種です。この記事をお読みいただき、少しでも「障害福祉サービス」という分野に興味を抱いていただけたなら幸いです。

ウェルフェア社会保険労務士法人
社会保険労務士・行政書士 高橋 悠 氏

行政書士事務所にて約8年間、介護・障害福祉サービス事業所の立ち上げ・運営支援に携わった後、2016年10月に「ゆう社会保険労務士事務所」を開業し、その後2018年9月に「ウェルフェア社会保険労務士法人」として法人化。顧問先のうち7割以上は介護・障害福祉サービス事業所であり、業界に特化した労務およびコンプライアンスの支援サービスを行っている。

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