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法令改正最前線(第43回『年金制度改革の課題と方向性』)

<滝 則茂 氏>

「働き方改革」と並ぶ大きな制度改革で、社労士の業務と密接な関連性を有するのは「社会保障制度改革」です。社会保障制度改革は、無論、厚生労働省が所管するテーマですが、国家財政との関りが重視されるため、財務省にとっても重大な関心事といえます。そのため、財務省の財政制度等審議会(財務大臣の諮問機関で、略称は「財政審」)では、財政面から社会保障制度の現状を分析し、改革の方向性に関する提案を行っています。今回は、4月24日に公表された、社会保障制度改革に関する財政審の資料の中から、年金制度改革に関する部分に絞り、そのポイントを紹介することとします。

1.年金制度改革の課題

財政審は、本年行われる次期財政検証を踏まえた年金制度改革の課題として、以下の6つを指摘しています。

  • ------------------------------  
  • ①年金額改定のあり方
  • ②被用者保険の適用拡大  
  • ③保険料拠出期間の延長  
  • ④在職老齢年金制度  
  • ⑤高所得者への年金給付  
  • ⑥繰下げ受給の柔軟化
  • ------------------------------

本稿では、②・④・⑤・⑥を取り上げることとします。なお、④と⑤は、密接に関連していますので、ワンセットで紹介します。

2.被用者保険の適用拡大

この点に関しては、従来、週30時間以上とされてきた厚生年金保険の適用範囲が、2016年10月から、501人以上規模の企業では、一定の要件を満たした週20時間以上の短時間労働者にも拡大されています。ただ、現 状では、週20時間以上30時間未満の被用者のうち、この適用拡大の対象となったものは40万人程度にとどまっており、今後、更なる適用拡大を図っていくという方向性が示されています。具体的には、企業規模要件・賃金要件などにつき検討を進めるべきであるとの方向性が示されています。

3.在職老齢年金制度と高所得者への年金給付

在職老齢年金制度のうち、60歳台前半の方を対象とするいわゆる低在老については、漸次適用年齢が引き上げられており、男性は2025年、女性は2030年に自然消滅します。そのため、見直しの検討対象となっているのは、65歳以上の方を対象とするいわゆる高在老になります。政府の方針として、「高齢者の勤労に中立的な公的年金制度の整備」が打ち出されており(「経済財政運営と改革の基本方針2018」2018.6.15閣議決定)、この観点から、高在老の縮小・廃止という方向性が導き出されます。ただし、高在老を縮小していくことは、それによってメリットを受ける者が月47万円以上の収入があるごく一部の受給者に限られる一方、逆に大半の受給者については、給付水準の低下につながるため、不公平感が生じないような工夫が必要であると指摘されています。その案としては、たとえば、所得の再分配の観点から年金課税を見直すという方向性が示されています。

4.繰下げ支給の柔軟化

近年、70歳以上の雇用者数は増加傾向にあり、内閣府の調査によると、70歳を超えても働くことを希望する高齢者も4割に上っています。ところが、現行の公的年金制度にあっては、年金の受給開始年齢を70歳到達後に繰下げ、給付水準を更に高めるとの選択は認められていません。この点を改め、現在70歳までとされている繰下げ受給の上限年齢を引き上げるべきであるとの方向性が示されています。

■今後の見通し

来年の通常国会には、年金制度改革に関する改正法案が提出される公算が高いと考えられています。その内容は、今回の財政審が指摘した課題をある程度踏まえたものになると思われますが、高齢者雇用の問題など、関連論点とのすり合わせが必要ですし、企業の負担増につながる内容も含まれています。そのため、制度改正が本格的に施行されるまでには、相当な猶予期間が置かれるのではないでしょうか。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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