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ダイバーシティの現場から…(第9回『女性活躍編』1)

<菊地 加奈子 氏>

女性を生かす多様な働き方の推進のために

2015年に女性活躍推進法が成立してから3年が経った。301人以上の企業で「女性管理職割合」について状況分析することを義務付けた上で数値目標と取り組み目標を定める(目標設定については他分野からも選択できる)という画期的な法律によって女性役員や管理職登用に向けて行動を起こし始めた企業も多い。 一方で、管理職層の女性は男性管理職と比較して未婚率が高く子どもの数も少ない(0人が最も多い)という点を見てもまだまだキャリア伸長と出産育児の問題双方にアプローチできているとは言い難い(JILPT「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査結果」平成25年より)。 そのような状況の中で、女性たち自身にも意識の変化が見られている。 自ら「非正規」を選択する女性たち 日本の雇用形態のうち、全雇用者の約4割は非正規雇用で、そのうちの7割が女性である。(総務省「労働力調査(詳細集計)」(年平均)長期時系列表) 非正規雇用については正規社員との待遇格差など、マイナスなイメージを持たれることが多い。もちろん職務同一パートが正規職員と差別されるといった法に抵触するような働き方を看過することは許されないが、一方で圧倒的に女性が多い非正規のうち、それぞれの意識に目を向けてみると興味深い結果が顕在化する。 それは、非正規雇用のうち、本当は正規社員を希望しているにもかかわらず非正規にならざるを得ない、といういわゆる『不本意非正規』と呼ばれる人の割合は16.9%と非正規労働者のうち半分にも満たないという事実だ。(総務省「労働力調査(詳細集計)」(平成27年平均) 第Ⅱ-16表) つまり、非正規となることを自ら選択している=多様な働き方を希望する女性が増えている、という結果にも企業は目を向けていかなければならない。 「自分の都合の良い時間に働きたいから」 多様性に目を向ける 正社員であっても育児中は子どもの年齢に応じて時短勤務や残業制限を請求することができる。それでも両立は難しいのだろうか。 筆者は第三子が生まれて間もない頃、このような働き方をしていた時期があった。小学1年生と3歳と0歳。小学校の学童と2つの保育園の合計3カ所で子どもたちは過ごしていた(保育園に預けることが先決で兄弟同じ園に通わせることができなかった)。乳児と大量の荷物を抱えての送迎は思った以上に厳しく、毎朝子どもたちを急かし、職場につく頃はヘトヘトになる。働く時間、職場のメンバーと仕事を共有できる時間も限られているのでちょっとした連携不足でそれまでの段取りがすべて無駄になってしまうこともあった。無理をすれば帰宅してからのリズムや夫婦連携も崩れてしまう。そのような日々を送りながら、これが管理職で育児時短も一切適用されないなんていう状況だったら仕事か家庭、いずれか一方が確実に壊れてしまうだろうと思った。 「自分の好きな時間に働きたいから」非正規を自ら選択する女性たちの心理は当然ながらよく理解できる。 非正規でないと自らの意思に従った自由な働き方はできないのか その後、私は「独立」という選択をした。その職場においては「時短=パートに近い仕事」「フルタイム=育児中であっても無制限に仕事をさせられる」という制約の中、自分自身の覚悟が定まらな かった部分が大きかったからだ。資格を持ち、より深い知識と経験を深めたいという思いがありながらも組織の中で働く以上、決められた時間とスケジュールの中で周囲と連携を取りながら仕事を滞りなく完遂するということが一番重要とされる。仕事の成果のクオリティよりも迷惑をかけてはいけない、ペースを乱してはいけないという緊張感とストレスの方が比較にならないほど大きく、精神的な負担がどんどん増していった。 「確実にできることを」と思って取捨選択していくと、自分が挑 戦したい仕事は何一つとして残らなかった。いっとき収入が落ちても、仕事がなくなったとしても、一つでも自分の専門性を磨くための仕事を獲得していこう。それが当時のモチベーションだった。 独立資金もなく、自宅の一室でひっそりと開業届を出し、右も左も分からない中での独立というものに不安がなかったわけではないが、いきなり全力投球ではなく、時間帯や量を自由に調整できる働き方は子どもが小さかった自分に合っていると思えた。 自分で組織を作り、女性を雇用して見て思ったこと 一つ一つの仕事と丁寧に向き合っていくうちに少しずつ仕事も軌道に乗り、今度は自分自身が人を雇用する立場になった。人件費の問題からもはじめは時給のパートを採用した。かつての自分と同じように小さな子どもを育てる女性たちだった。「人事部門で管理職を経験していたが育休復帰をしたらポストが無くなっていた」「社労士資格を10年以上前に取得していたものの、パートナーの転勤で日本中を転々としていたので開業したり事務所に勤めるということを諦めていた」「子どもが小さい間は保育園ではなく幼稚園に通わせて子ども中心の生活を送りたいと思っている。けれども社労士資格もあり、短時間であっても挑戦できる仕事があれば頑張ってみたい」 旧態依然の職場環境やパートナーの仕事の事情、生活観の違いによって彼女らの仕事は大きく制約を受ける。こんなにも優れた能力と可能性を持った人材を生かすことができないなんて社会として何ともったいないことだろう。かつて自分が組織に属することから離れてしまったように、彼らも自分のマネジメント次第でパフォーマンスが大きく変わるだろう。彼ら自身のモチベーションの問題ではなく、これは組織としての責任だ。本気でそう思った。 変化を受容し、変化をうながす 子どもが大きくなって手が離れ、これまでよりもできる仕事の幅が広がることもある。逆に第二子・第三子を出産してペースが後退することもあるだろう。転勤族であれば次の辞令も下り、いつまで もここに留まっていることはできない。子どもが成長すれば完全に手が離れるわけではなく、学業や精神的なサポートも必要になる。そんな変化に経営者として数多く向き合ってきた。ケースによって は組織全体にも影響し、経営者として深く悩むこともあった。しかしながらどんな変化であれ、本人が頑張りたいと思える限りは100%受容していこうと覚悟を決めた。 今では在宅勤務をする者、時差出勤をする者、就業時間自体をフレキシブルにする者、働き方のバリエーションはかなり増えた。かつての自分のように、毎朝泣く子どもを急かしたり、ふとした季節の変化やこどもが発する何とも言えない表現に気づく余裕もない、子どもの悩みに親として全力で寄り添うことができない、そうやって心を痛める母たちが一人でも減るように、その一心だった。 一方で私が限りなく自由な働き方を保証するのは、単に居心地の良い職場で育児期の生活の糧を稼ぐ目的の職員を増やすためではない。他の組織では挑戦できなかったこと、諦めざるを得ないことと向き合うためだ。固くブレーキを踏む女性たちの「変化をうながしていく」こともまた、自分自身の使命だと感じている。 多様な働き方・柔軟な働き方・働き方改革…今、世の中にあふれているこれらのキーワードは何を達成するための改革なのか。さまざまな目的について、深く考察し、企業それぞれが取り組んでいく 必要があると考える。

※本内容は、2018年10月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人ワーク・イノベーション代表
特定社会保険労務士 菊地 加奈子 氏

株式会社ワーク・イノベーション代表取締役。
厚生労働省 中央介護プランナーとして全国約1000社の仕事と介護の両立支援に携わる。全国社会保険労務士会連合会 両立支援部会の委員として仕事と介護の両立に関するテキストを作成。5児の母として、事務所に保育施設を併設し、自身や職員が子連れ出勤をしながら柔軟な勤務形態で働く環境を構築。多くの企業の仕事と介護の両立支援、女性活躍推進、テレワークをはじめとする働き方改革、事業所内保育施設導入のコンサルティングを行っており、「NHKクローズアップ現代」を始め新聞・メディアにも多数取り上げられている。全国でのセミナー・講演実績多数。

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