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ダイバーシティの現場から…(第8回『高齢者編』2)

<日隈 久美子 氏>

雇用のダイバーシティは、現在、国を挙げて推し進めている働き方改革と並行して、日本の労働の未来を担う根幹の理念であり、もはやその実践なくしては労働力不足が加速している国を支えていくことすら難しくなってきています。女性、障がい者、外国人労働者などと並び、まず真っ先に考えられるのは高齢者の就労でしょう。知識も経験も豊富な高齢者を企業の貴重な戦力として、心身ともに健康でより長く働いてもらえるように、社労士が知っておきたい高齢者雇用に関する基本的な事項をお伝えします。 前回は、労務管理上のアドバイスをする上で、知っておくと役立つ、シニア社員の心身の特性や仕事の向き・不向きについて、ご説明いたしました。今回は、シニア社員の特性をうまく生かし、戦力化を図るためのポイントと、シニア社員がいきいきと働くことができる制度を導入するための準備や心構えについて、お伝えしたいと思います。

4.高齢者戦力化の方向性

(1)シニア社員に戦力になってもらうために

これまでお話ししてきたとおり、高齢者雇用は進んできていますが、企業がシニア社員に求めることは様々ですし、シニア社員のモチベーションの問題や体力の個人差など課題を抱えている企業も少なくありません。また、ゆるやかな引退を視野に入れた働き方を希望する方が出てきたり、本人や家族の健康の問題もあるなかで、慢性的に人材不足である状態は続いており、確実に労働力人口は減少しています。しかしながら、シニア社員が有する知識・ノウハウが不可欠な分野は、潜在的にまだまだあります。また2025年までに年金支給開始年齢が65歳に引き上げられますので、働く側にとっても、これまで以上に長い期間働かなくてはいけない時代になっているのです。そういった中で企業は、高齢者を継続して働かせる仕組みを整えつつ、一方で再就職の受け入れも進めていかなければなりません。 高齢者に継続して働いてもらう仕組みは二つあります。 一つ目は、65歳までの定年引上げです。65歳までの方に力を発揮してもらうためには、雇用を確保するだけでなく、モチベーションを高めてもらい、これまで以上に戦力になってもらうことが必要です。 二つ目は、65歳以降の定年引上げ、継続雇用延長、定年の廃止です。65歳までの定年延長を皮切りに少しずつ導入が進んではいますが、65歳以上定年、定年の廃止となると、前回お話しした通り、企業への浸透は限られており、継続雇用延長にしても希望者全員を対象とするとなると、依然として少ないのが現状です。 一方、企業・従業員のニーズが合った場合は65歳を超えても雇用する企業は増えており、2割以上の企業で70歳以上まで働けるようになっています。 参考までに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が発行している「65歳超雇用推進マニュアルVol.2」(2018.2)に、定年引上げ・再雇用制度のメリット・デメリット比較表がありますので、掲載しておきます。

【図】

定年引上げには、メリットもありますが、逆に組織の若返りが図れない、人件費負担が増大する、人事制度の全体的な見直しを迫られるなど、制度を導入するにあたって企業が考えなければならない課題もあります。メリット、デメリット双方を考えてみても、いずれにせよ、企業は何らかの形で65歳までの雇用確保措置の導入を義務付けられており、雇用する以上は、戦力化は必要です。その点では定年引上げというのは、シニア社員を戦力化する強力な手段であるといえます。さらに、企業としては、企業のイメージアップや人材確保を有利に進められるなど、ほかにも利点がありますので、これを契機に人事・賃金制度の見直し、さらには働き方全体についての見直しなども行える可能性があります。

(2)実際にシニア社員を戦力化する制度を導入するために

役割の明示、評価・面談に加え、意識啓発など、さまざまな施策を行っていくことが必要です。

a.シニア社員への役割の明示

まず大切なのは、シニア社員に役割をしっかり伝えることです。長く会社にいたのだから、会社が望んでいることくらいは言わなくてもわかっているだろうと安易に決めつけるのはとても危険です。面談などの場を設けて具体的に役割を示し、それと併せて、その役割をどの程度発揮してもらうかについても明確に伝えることが大切です。労働条件通知書を渡すときもただ渡せばよいのではなく、文字を読むことが億劫になっているシニア社員もいるでしょうから、書面と併せて口頭でも伝えることが重要です。

b.シニア社員の評価・面談

企業はシニア社員に、期待する役割をただ伝えるだけではいけません。期待した役割をきちんと果たしているかについて、日頃から注意を払い、フィードバックをするとともに、公正な評価を行うことが必要です。熱心に業務に取り組んでいても、そうでなくても評価や賃金が変わらないようでは、モチベーションを維持させることは難しいと思われます。

c.シニア社員に対する意識啓発

引き続き現場で戦力になってもらうには、企業だけではなく、シニア社員にも意識を変えてもらう必要があります。これまでと同じ役割を期待する場合は、企業生活のゴールの先を余力で走るのではなく、そこで何ができるか、何をしたいかを改めて考えてもらいます。一方、これまでとは異なる役割を期待する場合には、若手や中堅社員と異なる立場で、どうすれば自分らしく働けるのか考え、気持ちを切り替え、新たな環境に適応していく準備をしてもらいます。その上で、これまでと異なる立場で、若手や中堅社員とともに仕事をしていく力、部下の助けなしでも働ける力、役職に頼らず仕事を処理する力を改めて身につけてもらいます。それと並行して、社員全体に対する意識啓発も重要です。シニア社員に期待する役割を周りの社員にもわかりやすく示す、シニア社員が力を発揮しやすいように呼称などを工夫する、シニア社員の活躍ぶりを周囲もきちんと評価するといったことも大切です。なお、自らのライフキャリアについて、早い段階から考える機会を提供する企業も増えてきています。

d.その他

シニア社員が不安に感じている健康上の問題について、企業も積極的に支援をしていくこと(例えば、法令に定められた定期検診はもとより、がん検診やインフルエンザの予防接種など)が求められます。働く側も若い段階から、健康の維持・向上に努めるよう、日頃より意識してもらうのも良いでしょう。 またシニア社員に対して、まだ元気だから何もしないというのではなく、作業環境の見直しや労働時間の弾力化など、いつまでもいきいきと活躍してもらえるように、職場環境を整えておくことも大切になってきます。 業種や職種によって、シニア社員の割合はさまざまかと思います。我々社労士は、企業の福祉の向上を図り、経営の発展をサポートする立場として、また企業の貴重な戦力を守る立場としても、シニア社員の特性を考慮した付加価値の高い提案ができるよう、その力を発揮することが求められています。

※本内容は、2018年8月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人NACマネジメント研究所
特定社会保険労務士 日隈 久美子 氏

平成16年社労士試験合格後、都内2か所の社労士事務所に勤務したのち、平成21年7月にひのくま社会保険労務士事務所を開設。平成27年9月に社会保険労務士法人NACマネジメント研究所に参画。平成23年5月特定社会保険労務士付記。中小企業福祉事業団幹事。平成25年3月には一般財団法人女性労働協会認定講師となり、通常の社労士業務を行うかたわら、さまざまな年代の再就職支援や就業継続支援を積極的に行っている。地方自治体の男女共同参画センターなどで女性向けの再就職支援セミナーや多くの大学等でのキャリア支援講座を多数開催。また雑誌、会報誌などの寄稿や著書の出版も精力的に行っている。
寄稿:企業実務2017.5月号(実務の一切がわかる会社で使う「営業車」の管理・運用マニュアル)、2018.3月号「マイカー借り上げの注意点」他
著書:「シニア社員の戦力を最大化するマネジメント」(共著、第一法規)

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