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業種特化社労士の視点から(第11回『クリーニング業編』)

<諸星 裕美 氏>

クリーニング業の現状と未来

クリーニング業界の市場規模は、1992年(平成4年)の8,170億円をピークに、2017年(平成29年)はその半分以下の約3,540億円まで低迷しております。この原因とされるのが、ファストファッションの流行をはじめ、自宅で洗えるスーツやコート、形状記憶型商品の台頭、スーツやワイシャツ不要の通勤スタイルのカジュアル化などを受けたことで、1世帯当たりのクリーニングにかける費用の減少が止まらないという事情があります。そのような厳しい中でも市場規模を伸ばしているのが、ネットを通し、自宅と工場間の直接配送を行う無店舗形態を取り入れ、クリーニングした服をオフシーズンの間に預かるというサービスを始めた会社や、少し割高なクリーニング代に当初から染み抜きやボタンの補修もすべて込み、個々の素材に合わせる又は環境に考慮した洗剤を使うなど、他にはない高付加価値を付けている会社です。一方、日本国内では、クリーニングのダンピング(ワイシャツが赤字必須の1枚100円前後)も発生しており、少なくなる一方のパイ(クリーニング代にかける費用)を取り合う結果、クリーニングの品質自体にも影響が出てきている状況が起きています。そのため、過度な国内の争いを避けて、これからクリーニングの需要が必ず伸びると思われる東南アジアを中心に、日本のクオリティーの高いクリーニング技術を伝えながら、活路と売り上げを海外市場に求める会社も出てきており、後述する労務管理環境のみならず、グローバルな方向性に関し、社労士が寄与する余地が大いにある業界ともいえるのではないかと考えます。

なぜクリーニング業に多く関与することになったのか?

クリーニング店には、数名のパートを使う家族中心の個人事業主店、拠点となるクリーニング工場を持って、チェーン店を展開する事業所などがあります。私はかつての勤務先(社労士事務所)で、たまたま地域中心のクリーニング業の事業所が多く加入していた労働保険事務組合の事務局を担当していました。私が開業独立後、ご縁を頂いていたチェーン展開する会社社長の紹介で、クリーニング業界団体での講演や研修の依頼を受けるようになりました。そのことがきっかけで、労務相談に乗ってほしい、煩雑な手続きも行ってほしいと顧問社労士として繋がったので、意識してクリーニング業界に特化したわけではなく、たまたま関与した件数が他の社労士事務所に比べて多かったということです。実際に関与をし始めると、日本が他国に誇れるクリーニングにおける「高い技術力」「(他の国にはない)きめ細やかさ」「(おもてなしの心の)丁寧さ」を持っていることがよく理解できました。そのため、日本国内だけの事業のみならず、海外展開の流れに行くのは必然ではないかと思います。ただし、後述するクリーニング業界にあった旧来型の労務管理下のままでは、その流れに乗ることは難しいでしょう。そのため社労士として業界に関与するには、事業所ごとの労務管理に関わる課題を整理し、クリーニング事業の継続性を見据えた適正な提案をすることができるかどうかにかかっていると考えます。

業界の労務特性と社労士としての関わり方

労働集約型であるクリーニング業界を支えているのは、パートで働く主婦の方々です。クリーニング業は、繁忙期(GW前後や衣替え時期)と閑散期における業務の繁閑の差が大きいため、パートとして働く時間の調整をシフトの中で自由にできるようにしたり、税法上の扶養の範囲で働きたいという要請も多かったため、繁忙期は長めに、閑散期等は短めにと、主婦が働きやすい勤務体系などをすでに取り入れているところが多くありました。ただし、一見柔軟性のある勤務体系は、法的に適正とまで言えないことも多く、例えば土日勤務の場合に時給の上乗せはしているが、法定時間超えや法的な休日出勤があっても、適正な割増をしていないなど、労務管理に対する基本的な知識や対応を前提としていないことも多くありました。 またこの業界ではクリーニング技術を身に付けたり、繊維等の知識を得られることもあるので、経験豊かなパートが多く、勤続年数が長くなる傾向もあり、パートの高齢化がいつの間にか進んでしまったという問題もあります。 さらにクリーニング業界のイメージとして、工場などの現場仕事も多く、特に夏場は暑い中での作業という印象もあって、人手不足問題は益々厳しくなってきています。そのため、定着しているパートの方の生産性を上げることが必要となり、業務のステップアップを目指す視点を取り入れることが求められてきています。そこに社労士が関与すれば、適切な変形労働時間制への指南と適正な勤務体系の提案、一歩進めて1年間の業務の平準化を図るための情報提供などもできるはずです。また同時に、職務に応じた給与、処遇を考慮した福利厚生制度を整えるなど、社労士としてクリーニング業界に関与するにあたり、求められる業務範囲は少なくないと思います。 現在、私共の事務所で関与している業務は、パートの入退社が多いことから、社会保険や雇用保険の手続きが中心となっています。顧問社労士として関与したての頃は、パートは有期雇用契約が前提にも関わらず、10年以上前から働いているパートでも書面での契約書が一切ないということが業界の中でも少なくなかったので、まずは雇用契約書の締結を徹底して頂くなど、適正な雇用管理を行うことを基本に進めてきました。もともと自由なシフト制導入をしていましたが、変形労働時間制という考え方での割増対象としていなかったなど、法に則した週単位や日単位での適正な給与計算ができていないこともあったため、適正な時間管理の提案と共に、そのタイミングで給与計算を受託できたこともあります。 また、業界的には就業規則の作成が遅れ気味(古いなど)の傾向が強かったので、就業規則等の全体的な見直しに関与しつつ、同時に従業員の処遇やパートの人事管理の見直しも提案致しました。具体的には、会社の実情について従業員アンケートを取り、社員やパート個人へのヒアリングをしたうえで、キャリアアップを考慮した柔軟な働き方を提案致しました。 さらにパートでも職務の分類と定型化を進めて、簡単な評価制度を取り入れることを提案した結果、従来は悩みの種であった時給の見直しに納得感が得られたという取組みも実施できています。

今後、クリーニング業界で社労士が求められることとは?

クリーニング業界ではパートを含めて、働く方の高齢化が進んでいます。そのため高齢者の方が働きやすい環境をソフト・ハード面で整えることが先行することになります。その一方で、東南アジアを中心とした留学生や日本人の妻である外国人の雇用が増加しており、若年者となる労働力は、外国人に頼らざるを得ない状況になっています。その実態に合わせて、社労士がどのようなアドバイスができるのか、高齢者に関わる雇用施策や外国人の就労許可に関わる情報を、専門機関や他士業とのネットワークを通して集約していくことが求められてくるのではないかと感じています。加えて、日本国内だけに留まらず、海外へその技術を送り出そうとしていることから、単に人手不足という理由で外国人留学生を雇用するのではなく、卒業後にも会社の基幹人材となるよう育成したいという経営者側の想いを常に感じています。そのため、クリーニング業界のグローバル化に合わせて、国内外で働く外国人にも魅力ある制度をどう社労士が提案できるかが求められています。さらに今まではクリーニング業界ではあまり顕在化してこなかった複雑な労務問題が発生しているなど、社労士を頼りにする場面が増えていることを実感しており、「働き方改革」の波も受け、盤石な労務管理への対応をせ ざるを得ない業界の一つと思います。私たち社労士の認知度をさらに高めて、労務の専門家が多く関与できる業界となってほしいと、今後も団体のセミナー等に私自身も積極的に登壇し、お伝えして行こうと思っております。

※本内容は、2018年6月発刊時点の情報となります。

オフィスモロホシ代表
社会保険労務士 諸星 裕美 氏

厚生労働省 元社会保険審査会委員。キャリアコンサルタント。
大学卒業後一般OLを経て、父の社労士事務所に20年勤務後、女性の就労支援をしたいと2004年独立開業。就業規則などの労務管理を中心に企業トップや総務担当者の相談に多数応じる。2008年から1期3年社労士として初めて社会保険審査会の委員を務めた後、現在も社会保障審議会年金部会臨時委員、日本私立学校振興・共済事業団共済審査会公益委員を務めながら、厚労省委託関連事業関係の雇用管理に関わる各種事業において本委員会の委員を複数拝命し、基調講演等を担当している。

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