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業種特化社労士の視点から(第9回『派遣業編』)

<小岩 広宣 氏>

派遣業界の現状と未来について

皆さんは人材派遣業の分野にどのような印象をお持ちでしょうか?もちろんすでに得意分野にされていたり、この分野での業務経験を積まれていたり、あるいはこれから専門性を高めていきたいという方もいらっしゃると思います。でも、私の肌感覚では、残念ながら派遣業の分野にあまりよいイメージを持っていなかったり、それほど興味を持てないという社労士の方が少なくないと思います。かつてのリーマンショック後の「派遣切り」や「年越し派遣村」に象徴されるようなネガティブなイメージの影響もあるかもしれませんし、間接雇用という例外的な雇用形態ゆえに、労働者派遣法という 労働法の中でも特殊な法律に規律される派遣業の分野について、苦手意識や取っつきにくさを感じる方もいらっしゃると思います。でも、私は開業以来15年に渡って、地方開業者でありながら専らこの分野に特化していますが、一貫して社労士に対する事業者からの期待は高まってきていると感じます。時代の変遷の中でニーズや役割の変化は大きいものがありますが、他の業種・業態には見られない雇用管理の特殊性と法改正の頻度の高さゆえに、これからも専門性を持つ社労士への期待は基本的には高まっていく流れにあると思います。 派遣業界は、いま二つの意味で激動の真っただ中にあります。一つ目は、事業規制のあり方が強化され、事業者の絞り込みが図られているという点です。ご存じのように派遣事業には、従来から許可制による一般労働者派遣事業と届出制による特定労働者派遣事業が存在しましたが、平成27年の法 改正によって特定労働者派遣事業は廃止されました。改正法施行から3年間の経過措置期間が置かれましたが、平成30年9月29日をもって終了することで、すべての特定労働者派遣事業は姿を消すことになります。労働者派遣事業報告書の集計結果によると、平成28年6月現在、特定労働者派遣事業は約5万事業所ありましたが、許可制に移行する事業所は一定割合しか存在しないといわれていますから、現 実的にはかなり多くの事業所が派遣事業を廃止することになります。今年の秋を境目とする業界を取り巻く環境の変化は、間違いなく派遣法制定以来の大きな画期だといえるでしょう。 二つ目は、働き方改革や同一労働同一賃金の流れの中で、派遣労働のあり方が見直されていくという点です。同一労働同一賃金については今年の通常国会以降に立法化に向けた議論が本格的にスタートし、平成28年12月に公表されたガイドラインを具体化する方向で法改正が進められるといわれています。労働契約法やパートタイム労働法の改正の行方が注目されますが、派遣法についてもかなり大きな改正が想定されています。派遣労働者の同一労働同一賃金に関する法整備については、①派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善、②労使協定による一定水準を満たす待遇決定による待遇改善のいずれかの「選択制」とすることが適当とされていますが、これらの案の内容は複雑である上に詳細については今後の法制化の中での議論に委ねられています。「②」の協定方式を採用する事業者が多くなるのではと予測されていますが、この場合は派遣労働者の賃金の決定方法や公正評価の仕組みが正面から問われることになります。従来の派遣労働者の雇用管理のあり方が大幅に見直されたり、根本的な制度変更が求められることにもなるため、事前の対応が急務となっていくことでしょう。

なぜ派遣業に特化しようと思ったのか

私はもともと派遣労働者でした。大学卒業後、新卒で就職した会社を早々にリタイアし、数社の転職を経てたどり着いたのが、派遣という働き方でした。お恥ずかしい話、転職人生の中で正社員として巡り合った会社とは、なかなか相容れなかった当時の私ですが、もうダメかと思ったときにあらわれたのが派遣という働き方だったのです。年齢やそれまでのキャリアとは関係なく、文字通り即戦力として入社当日から対等な仲間として迎えてくれた職場は、自信とやる気を取り戻す契機となり、結果的には職業人としての実質的なスタートラインとなりました。このあたりの経緯については、平成21年に出版した『派遣社員のためのリスク管理と上手な働き方』(同文館出版)でも詳しく述べていますので、興味のある方はご一読ください。 そして、派遣労働者とともに、派遣会社の正社員も経験しました。派遣会社の管理部に在籍し、派遣労働者の労務管理や会社全体の総務的な業務に従事できたことは、私が派遣業界に深く関わることになる取っ掛かりとなりました。派遣労働者の特殊な労務管理について、ひたすら実務の視点から基礎的な知識と経験を持つことができたことは、のちのちの私のキャリアに向けての肥やしとなっていったと思います。この段階では、転職人生の中で巡り合った派遣という世界が、まさか自分の天職の分野になるとは想像もしませんでしたが、不思議なご縁の力に感謝しかありません。 実は、私が社労士という資格を初めて知ったのも、派遣会社勤務時代でした。私が入社してしばらく経って転職してきた人が、社労士の資格者だったのです。20代前半にして行政書士の資格も持っていた彼は、入社早々から社会保険、雇用契約、労務管理、社内規程といった総務部の中核的な業務を任され、瞬く間に部署のエース的な存在として活躍していきました。今でもこの方とは親交がありますが、私に社労士という資格の存在や価値を教えてくれ、社労士として派遣業の分野で活躍するのだという覚悟を導いてくれたという意味では、偉大な恩人だと思っています。 29歳のとき、社労士業界の右も左も分からない状態で開業しましたが、飛び込み営業、ポスティング、DM、ホームページ、業務提携などあらゆる営業方法に挑戦したものの、最初の1年ほどは芽が出るには程遠い段階でした。そんな中、業務提携を持ちかけていたある方から声をかけていただき、派遣会社を紹介していただいたのが私の顧問契約第1号でした。自分がそれまで身を置いていた派遣業界についての情報発信に特化するようになってからは、紹介が紹介を生んで自然と連鎖となっていき、ありがたいことに毎年倍増の勢いで顧問先が増えていきました。 勉強会などのご縁がきっかけで東京や大阪に行く機会も増えましたが、そうした場でささまざまな方々からアドバイスを受け、ホームページやメルマガでは早い時期から派遣業専門社労士として情報発信に努めてきました。専門書も何冊か出版させていただく機会に恵まれたこともあり、少しずつ専門家としての認知度も高まり、同業の方からのご紹介も増え、今では北海道から沖縄に至るまでご相談があります。派遣会社での勤務経験に加えて、派遣労働者の経験も持つ社労士という異色の経歴が、少しでも業界のお役に立つことができればという思いで日々の業務に励んでいます。

派遣業への社労士の関与の可能性

社労士が派遣業界に関与するテーマとしては、今は何といっても派遣事業許可の申請手続きがトップバッターでしょう。今年の秋までの半年間は、東京、大阪などの都市部を中心に、専門としている社労士だけでとても対応できないくらいの駆け込み需要があると思います。私の事務所にも毎日のよ うに全国各地からご相談がありますが、申請業務の経験があることの実績をホームページなどで発信しておくだけでも、同業の社労士の方からの紹介も含めて、何らかの反応が期待できるといえるでしょう。 許可申請業務の可能性は、特定事業からの切り替えニーズだけではありません。新規に業界に参入したいというニーズは必ず一定割合ありますし、初回3年、その後5年ごとの許可更新についても、社労士に申請代行を依頼するケースが多数派だと思います。建設、運輸、介護などいわゆる許認可事 業にもさまざまなものがありますが、社労士固有の独占業務だとされているのは派遣事業の許可のみだと思います(介護事業指定についてはさまざまな見解がありますが、行政書士との共管業務だとする見方が主流のようです)。その上、派遣事業許可はそもそも煩雑で難易度が高いため、自社で対応しようと考える人はかなり少数派です。平成27年の法改正でキャリアアップが義務化されて以降は、いっそうその傾向が強まっていると思いますので、特に助成金業務などの兼ね合いでキャリアコンサルタント資格を取得されている方などは、新たな専門性として付加する方向性も有望だと思います。 更には、増加しつつある無期雇用派遣労働者の労務管理も、これからのニーズが期待される大きなテーマです。全派遣労働者約130万人のうち、約30万人が無期雇用派遣労働者であり(平成27年度労働者派遣事業報告書の集計結果)、今後増える傾向にあります。無期雇用派遣労働者は、派遣先からすれば仕事に習熟した人に3年を超えて現場に定着してもらうことができるため、派遣元からすれば取引 先の期待に応えられる優秀な人材に長期間にわたって就業してもらうことができるため、大きな魅力があります。 無期雇用派遣労働者について社労士が果たすべき役割としては、まずは新たな雇用形態に対応した就業規則の整備が挙げられます。派遣会社の就業規則としては、正社員就業規則と派遣労働者就業規則(有期雇用)の2パターンが存在するのが典型的です。従来この業界では、無期雇用の派遣労働者について独自の労務管理を行うという慣行が乏しいため、一部の技術系やIT系派遣を除いては、「無期雇用」の派遣労働者に適用される就業規則が存在しません。 ところが無期雇用派遣労働者の増加にともなって、従来は想定されていなかった配置転換や人事評価、人事命令や解雇基準などのテーマが表面化してくる可能性が高くなります。従来の就業規則をそのまま放置しておくと、無期雇用派遣労働者は正社員就業規則も、派遣労働者就業規則(有期雇用)も適用されないという中途半端な状態を招いてしまうことになり、いざ労使トラブルなどが発生したときにはまったく対応することができなくなることになりかねません。 無期雇用派遣労働者としての働き方を前提としたキャリアアップの推進は、改正法の趣旨に叶った国策でもあり、これからの派遣業界を担う新たなビジネスモデルともなりうるものです。ぜひ、社労士としては、そうした流れに対応できる就業規則を提案し、実務運用面を力強く後押しすることで、 派遣会社のコンプライアンス面の強化や派遣労働者の就業条件の整備を通じて、派遣業界の成長・発展に寄与していきたいものです。

※本内容は、2018年2月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人ナデック代表社員
特定社会保険労務士 小岩 広宣 氏

特定行政書士、国家資格キャリアコンサルタント。
1973年、三重県生まれ。人材派遣会社を経て2002年に開業し、人材派遣の分野に強い社労士として活躍。派遣業や職業紹介業の許可申請のほか、就業規則や労務管理、法改正対応等の業務を行う。適正な請負業の支援も視野に入れた人材ビジネス支援では全国的な実績を持つ。厚労省委託事業や公的団体での講師を務め、専門誌等の執筆実績も多数。有名講師を地元に招く「みえ企業成長塾」を主宰。『人材派遣・紹介業許可申請・設立運営ハンドブック』(日本法令)、『トラブルを防ぐ!パート・アルバイト雇用の法律Q&A』(同文舘出版)など著書10冊。

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