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業種特化社労士の視点から(第7回『保育業編』)

<楚山 和司 氏>

はじめに

平成28年度より、全国社会保険労務士会連合会の研修システムに「保育業労務管理研修」が加わり、助成金についても「保育労働者雇用管理制度助成金」が創設され、各都道府県会からは「企業主導型保育事業」について周知されているところです。 皆様におかれましても、このような社労士界内外の動きにあわせ、保育業への興味・関心が高まっている方もいらっしゃることと存じます。 本稿では、(1)保育業特化のきっかけと業種の魅力、(2)保育業界の変遷と業種の特殊性、(3)保育業への社労士の関与の可能性、の各トピックについてご紹介した後に、当事務所の運営理念や今後の私のビジョンについて述べてまいります。

(1)保育業特化のきっかけと業種の魅力

当事務所では開業当初より、広義の福祉でも介護+保育や幼稚園+保育所でもなく、保育業のみに特化して業務を展開しています。 そこまで保育業にこだわるには、次のような理由があります。 私と保育業との出会いは、そもそも保育事業者に新卒入社したことでした。もともと学生の頃から「子どもと関わる仕事がしたい」という思いがあり入社を決めましたが、いざ業務を始めてみますと、保育所が社会にとって非常に意義深い存在であることにあらためて気付かされました。 詳しくは次項にも紙幅を譲りますが、特に私は今でも「保育所(士)は社会インフラである」という信念をもっています。少子化対策・次世代育成という従来の観点はもちろんのこと、同時に両立支援・女性活躍・正規雇用化の促進→労働市場の活性化→GDPの底上げといった、もはや将来中長期 の日本経済の根幹を担っている業界といっても過言ではありません。 また、保育の在り方そのものが今まさに世に問い直されつつあり、子育ての意味や責任、何のための・誰のための子育てなのか、そしてその一方では、児童福祉法が保障する子どもたちにとっての「最善の利益」とは何を意味するのか…といった議論が尽きません。 その点、確実に言えることとしては、保育業ほど労働集約的な、その価値の源泉を労働者に依拠する産業はない、ということです。 どのような経済・社会・文化にあっても、人工知能をはじめ、どれだけテクノロジーが発達しても、決して「人が人を育てる」という営みが変わることはないでしょう。 すなわち、保育業に従事する労働者一人ひとりが、いわば「未来を育てる」という誇りとそれに見合う高度な知識・技能、そして適正な処遇のもとに働くことができる職場環境を整備することこそが、日本の将来を左右する――このような理由から、私は保育業特化のスタイルにこの上ない期待と使命感とやりがいを感じ、またそれこそが、私たち「人の専門家」たる社労士が関わるべき意義だと信じています。

(2)保育業界の変遷と業種の特殊性 保育業と一口にいっても、さまざまな業態が存在します(下表参照)。

本稿では便宜的に「主に保育士による保育を提供することを目的とした法人の事業」と定義したうえで、まず所管自治体の「認可」を受けているかどうかで大別します(このほか認可とは別の概念として「確認」による分類もありますが、本稿においては割愛します)。 この認可を受けた施設・事業は、その財源を「公定価格」という、地域差等を考慮して内閣府によって定められた「保育の標準的な対価」で保障され、一方では保育の質的な担保を図るため、一定の認可基準に適合した運営が求められます。したがって、開所日や開所時間、職員の要件や人数が自治体の指導監督の対象となっているほか、昇給原資に事実上限界がある点で他の業種とは大きく異なります。 そのうえでさらに、原則として、保護者の就労等により保育を必要とする3歳未満児を預かる利用定員20名未満の保育事業は「特定地域型保育事業」に、同じく未就学児を預かる利用定員20名以上の保育施設は「特定教育・保育施設」に該当します。 なお「認定こども園」とは、幼稚園の機能と保育所の機能を双方併せもった運営形態の特定教育・保育施設で、保育士のほか幼稚園教諭も配置されることがある点、預かり時間が機能ごとに異なる点、設置主体の法人種別に制約がある点などが特徴です。 ちなみに、冒頭にもお示しした「企業主導型保育事業」は一般的に公費による財源保障のない、いわゆる認可外保育所の位置づけではありますが、平成28年度以降の子ども・子育て拠出金率の引き上げ分を財源とした認可事業並みの整備費助成・運営費助成を受けることができます。認可事業たる事業所内保育事業と財政基盤において遜色なく、むしろ、より機動的な開設や柔軟な制度設計を図ることができる点で、新たに期待が高まっている事業です。 かつては社会福祉法人による小規模・地域密着・家族経営的な色彩の強い業界でしたが、現在は多様な運営主体の参入も進んできています。特に株式会社は広域・複数園経営を特徴として、自社グループ商材のマーケティングやブランディングも兼ねつつ、都市部を中心に開設著しいところです。 今後「3つの不足(保育士不足・物件不足・地域理解不足)」を解決していくために、さらなる保育労働者の処遇改善、物件所有者・貸与者への優遇税制、地域連携コーディネーターの配置など、国レベルでの予算が確保されています。

(3)保育業への社労士の関与の可能性

現状もっとも社労士の関与が求められるのが保育労働者の処遇改善――端的に言えば「処遇改善等加算」という公定価格を構成する加算(内実は助成金のようなものとお考えください)の最適活用に向けた支援です。平成29年度から特に「処遇改善等加算Ⅱ」という、従来の加算とは別に新たに設けられた仕組みの導入により、制度全体が非常に複雑化しています。 基本となる考え方としては、職員の福祉施設等における平均経験年数や在籍児童数などに応じて算定される加算額を原資として、原則開設年度の前年度を基準とし、毎年度の賃金改善に充当していくこととされています。 しかしながら、そもそも開設前に賃金テーブルが存在しない、あるいは加算を想定した設計になっていない、加算対象となる賃金改善の定義が難解といった事情から、年収ベースでの(賞与の上乗せや一時金による)賃金改善に留まっていたり、加算額を大きく上回る賃金改善を行ったことで経営 が逼迫してしまったりといった問題が生じています。 長期勤続やそれに基づくキャリアアップ、ひいては保育の質の維持・向上のためにも、国の推奨どおり月収ベースでの賃金改善、適正な改善額の設定など、社労士の知見が大いに求められます。 また、その一環としての賃金テーブルの作成・改訂にあたっては、保育労働者雇用管理制度助成金も活用することができます(ただし認可外の施設・事業のみを運営する法人は対象外)。

おわりに

私自身、社労士であるとともに、保育士です。 特に保育業においては「感情労働」という言葉があるように、こと福祉職の名のもとに、ともすると「子どもたちのため」という職業倫理の裏返しとして、いわゆるサービス残業もやむなしという風潮があります。 当事務所では運営理念の一つに「感情労働にルールを。保育現場にミライを。」を掲げていますが、やはり当事者の、保育のプロフェッショナルとしての想いに寄り添うことを何よりも大切にしています。 単に働き方改革を標榜し残業削減だけを目的とした支援の提案をしたとしても、必ずしも保育事業者や個々の保育士の理解を得ることはできません。 どういう保育を実現したいか、どういう人材に保育を任せたいか、それは子どもたちにとって「最善の利益」になるのか…これらの想いを受けとめ、業種を取りまく法制度とのバランスを保ちながら、最適解としての、あるいはより良い選択肢としての働き方を提案する、という視点が求められます。 保育事業者・保育労働者と、子どもたちやその保護者、周辺住民との相互の支えあいを実現し、保育業を中心とした地域の活性化に貢献すること――これが、私のこれからのビジョンです。

※本内容は、2017年10月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士事務所そやま保育経営パートナー代表
社会保険労務士 楚山 和司 氏

キャリアコンサルタント、健康経営アドバイザー、ホワイト企業化推進コンソーシアム研究会副会長。開成高等学校・早稲田大学第一文学部卒。子育て支援事業のリーディングカンパニーおよびその主力子会社において、保育所の開設から運営に至るまであらゆる法人本部業務を担当。特に保育所特有の会計報告や自治体の指導監査対応実績は各累計500件を超える。現在はそれらの経験を活かし、本業のかたわら企業主導型保育事業導入コンサルティングを全国に発信中。「日本で一番保育に本気で向き合う社労士」を自負して活動中。

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