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業種特化社労士の視点から(第6回『医療事業編』)

<濱 利明 氏>

医療業界の現状と未来

医療機関である診療所の数は2012年に10万軒を超えており、横ばいないしは増加傾向にあります。そのうち首都圏には約3割が所在しており、特に東京地区では現在でも大きく増えているような状況です。国の医療施策としては、入院型から在宅型へ方向転換をしており、外来診療も抑制方向にあります。つまり、今では「医院は開業すれば儲かる」というような通説は通用しない時代に入ってきているというわけです。他の業界と同様に差別化による競争力が求められる時代となってきました。

なぜ医療業界に特化しようと思ったのか

現在、社会保険労務士濱事務所(以下、「弊所」といいます)では、医科・歯科の個人クリニックを中心とした人事・労務関係の支援を中心に運営しております。勤務医師が新たに開業医になる際、例えば採用面接からの支援をお手伝いするケースが多いです。 社会保険労務士事務所を開業したのは2005年の9月で、2017年8月時点で開業12年、職員数は7名とな ります。うち社労士2名と准看護師が1名おります。 開業当初から歯科、医科など医療業界に特化していたわけではなく、前職がホテルマンであったことから、当初は主にサービス業である飲食店を中心に顧問先を増やしておりました。 ところが、皆様の記憶にも新しいことかと思いますが、2008年のリーマンショック、その後2011年の東日本大震災による、経済の大きな冷え込みの影響から、残念ながら、弊所も売り上げの一番大きかったゼネコンの倒産やその傘下の企業、そして多くの飲食店の顧問先をその時期に失いました。顧問料も滞ってしまったり、そのまま夜逃げのような状態もあったり、途方に暮れた時期でもありました。 そんな中、結果としてその時期に残ったのは不況に強かった医療関係の顧問先だったというわけです。ただし、その時点でもまだ医療関係に特化しようという気持ちはなく(後述いたしますが)、逆に医療関係のお客様への関与はすべてやめようと思っていた時期でもありました。 そんな時期に、医療関係に特化するきっかけとなった二つの出会いがありました。まずひとつは、2010年に前職の同僚でその当時医療関係のコンサルタントをしていた友人から、新潟労災病院院長の松原要一先生を紹介していただいたことです。わざわざ新潟の直江津に出向き、松原先生の、当時としては画期的であるICTを地域医療連携に活用した勤務医師の過重労働撲滅への取り組みついての熱いお話を伺うにつけ、社労士として何かこの業界に役に立てることはないだろうかと考え始めました。 そしてもうひとつ、2013年の夏に、全国にチェーン店を持つ整体院が顧問先になったのですが、社長から、その会社の顧問税理士を紹介していただいたことです。その税理士さんは、医療関係の業者を集めた団体を主催しており、その勉強会に誘っていただいたのです。勉強会では、毎月、医療業界関係者を招いて情報交換をしつつ、お互いの営業先である医療機関の情報交換や相談など、お互いに紹介しあいながら営業活動も行うというもので、せっかく入会するからにはと、その団体の世話役を買って出て、理事を引き受けることになりました。 医療業界は特殊で、社労士がいくらお金を積んで広告を出したからと言って、あまり反響はありません。知り合いの医師からの紹介や、顧問税理士からの紹介というのがもっぱら顧問先を増やす手段となります。その当時でも少しずつですが、顧問先クリニックからの紹介で医療関係の顧問先は増えつつあるような状態でした。さらに独特なのは、多くは職員10人未満の個人医院であるということです。一つひとつは小規模ですが、医院が抱える悩みはいつも深刻で、毎日のように医院の職員に関して、長時間の電話や長文のメールなどで相談が寄せられます。 今でこそ事務所内には医療機関の状況のよくわかる看護師がおりますが、状況があまりよくわからなかった当時は、スタッフもその対応で忙殺されて、疲弊しておりました。遅い時刻の電話や訪問を要請され、その度に、対応が難しい旨をご説明するといった状況が続いていたわけです。しかも、実 際にいざ訪問してみると「スタッフがきちんと掃除をしてくれない」というような相談内容などで、「それははたして労務の問題なのだろうか?」と、弊所も困り果てていました。そのようなこともあり、当時は医療機関の顧問先はすべて契約を見直そうと考えていた時期でした。 さて、その医療業界の団体というのは一般社団法人メディカルスタディ協会(以後、MSSといいます)という団体になるのですが、東京、名古屋、大阪、福岡に拠点を持つ大規模な医療業界の団体となります。東京だけでも110社ほどの会員数となっています。MSSでの勉強会では、医療機器メーカーから内装、広告、研修、人材、金融機関など、幅広い医療関係の支援機関が集まってきています。その多数の専門業者から、クリニックを中心とした医療業界の悩みに対する「解」を学ぶことができ、また専門業者を相互に紹介することで、弊所の顧問先の悩みも徐々にですが解決されていきました。また営業的なところですが、MSSの会員企業から月間1、2件の医療機関のご紹介をいただけるようになりました。

医療業界の労務管理の特殊な点

医療業界の、特に労務管理の特殊性ということで言えば、端的にプレイヤーがマネージャーを兼任しているところです。通常の企業であれば「中間管理職」といった存在が経営者とスタッフとの間の緩衝材となります。ところが医療機関ではそういった緩衝材がないために、ダイレクトに経営者とスタッフとの対立関係が顕在化してしまいます。また、小さな職場であることが多いことから、スタッフ同士のいじめ、パワハラ、派閥、集団抗議も少なくありません。医師の見ていないところで予約拒否(残業拒否)もまかり通っています。一番厳しいのが看護師を中心とした求人難の問題です。専門職の人件費は首都圏においては大変高騰してきています。また、労働法の理解や労働条件についても経営者とスタッフの間の意識の違いが大きく、対立関係になりやすいという特色があります。 こういった問題を解決するには3つのポイントがあると考えます。 一つ目は医療機関の院長に就業規則をはじめ、労働契約・労働法の基本的な考え方を理解していただくこと。 二つ目は業務を見える化、マニュアル化し、仕事を属人化させないこと。 三つ目がコミュニケーションのトレーニングや院内ミーティングの実施です。 社会保険労務士事務所の取り組みとしては、定型化された実務、たとえば勤怠管理や入退社手続、給与計算を全てパッケージで委託してもらいます。 経営者である医師の負担を軽減するとともに、社労士事務所側の取り組みとしては、電子申請をはじめ、実務のICT化の徹底によって実務時間をコンパクトに短縮していきます。医療機関とのやり取りも極力電話・訪問面接等お互いの時間を取られる方法は避け、メール、グループウエアなど電子媒体でコミュニケーションをとるようにしました。このことにより、平日9時~17時の社労士事務所と不規則な診療時間後でしか連絡ができない医療機関との連絡時間の誤差を埋めることができます。こういった手法を取り入れることで、ほぼ医療機関への定期訪問は無しということでも実務上は全く問題が出なくなりました。

今後の取り組みについて

冒頭にも申しましたように、医院をはじめ医療機関も競争時代となってきました。これは患者にとっては選択の自由があるわけで、とてもいい時代になったともいえます。医療機関の選択は当然ながら医師の資質が第一となりますが、スタッフの教育や定着なども欠かせない条件になってきています。 そこで、今後の事務所の取り組みですが、やはりアナログなコンサル部門の強化と、アウトソーシング部門のさらなるデジタル化の強化ということになります。特にヒントとしては、医療業界で使っている患者管理システム(電子カルテ・レセコン)を社労士の顧問先管理システムに応用することです。時間はかかると思いますが、次世代の医療業務支援開発をしていきたいと考えております。

※本内容は、2017年8月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士濱事務所代表
特定社会保険労務士 濱 利明 氏

1963年福岡県生まれ。
ヒルトン東京ベイに入社し、外資系特有のフランクな労務管理を学ぶ。2001年社会保険労務士資格取得。17年間の勤務を経て同社を退職。大手社労士事務所勤務を経て、2005年独立開業。現在はクリニック・病院等医療業に専門特化した人事・労務支援を行っている。

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