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法令改正最前線(第56回『過労死の労災認定基準の見直し』)

<滝 則茂 氏>

今回は、7日7日に厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」が取りまとめた、過労死の労災認定基準見直しに向けての提言(報告書)について取り上げることとします。特に法改正に直結するテーマではありませんが、長時間労働が問題となっている事業所においては、決して無視することができない動向です。

1.労災認定基準の見直しが検討されるに至った経緯
業務による過重負荷を原因とする脳・心臓疾患については、平成13年12月に改正された「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(平13.12.12基発1063号)に基づき労災認定が行われてきました。その後、すでに20年近くが経過し、働き方の多様化や職場環境の変化が生じています。そのため、最新の医学的知見を踏まえた検証が必要となり、厚生労働省は昨年の6月、学識経験者による「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」を立ち上げました。
この検討会は、13回にわたって開催され、認定基準の全般について最新の医学的知見を踏まえた検証、検討を行いました。そして、7月7日の第13回検討会で、報告書が取りまとめられました。

2.「長期間の過重業務」の考え方
今回の基準見直しの一つの焦点となったのが、脳・心臓疾患の原因となる「長期間の過重業務」の考え方です。 
①負荷要因の捉え方
疲労の蓄積をもたらす「労働時間」以外の負荷要因として、「休日のない連続勤務」、「勤務間インターバルが短い業務」、「身体的負荷を伴う業務」を新たに規定しています。
②いわゆる過労死ラインの考え方
発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる。
上記の時間外労働に関する時間数の基準(過労死ライン)については、今後も引き続き継続するとしています。労働者側弁護士等から、この基準の見直し(国際的な基準を踏まえ、基準となる時間数を減らすこと)が提唱されていましたが、現状維持が妥当であるとされています。 他方で、労働時間のみでは業務と発症との関連性が強いと認められる水準には達しないが、これに近い時間外労働が認められ、これに加え、一定の時間外労働以外の負荷(不規則勤務など)が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを明示しています。つまり、過労死ラインの時間数をクリアできていたとしても、決して安心することはできないということです。

3.今後の見通しと労務管理上の課題
①今後の見通し
パブリックコメントの収集等のプロセスを経て、早ければ8月中には、今回の報告書を踏まえた内容の通達が、厚生労働省から発出される見込みです。パンフレット等により、事業所に周知されるでしょう。
②労務管理上の課題
長時間労働の是正が課題となっている事業所においては、単に時間外労働や休日労働の時間数を削減するだけなく、「勤務時間インターバルの確保」など、新たな施策も取り入れることにより、労働者の過重負荷の軽減に注力することが急務であると思われます。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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